今日は前回のこちらの記事の続きで、甘いナチュラルワインが存在しうる具体的な理由についてのお話をしたいと思います。前回の記事をまだご覧になっていない方はぜひそちらからご確認ください。
ナチュラルワインの定義に関する記事はこちら
⇒ ナチュラルワインは甘くないんじゃなかったんですか? 其の壱
甘いナチュラルワインは存在し得る
前回、ナチュラルワインに二酸化硫黄を使うことは禁止されていない、というお話をしました。Decanterが定義したナチュラルワインの定義には、さらに、ナチュラルワインが必ずしも辛口でなければならない、という規定もありません。しつこいようですが前述の通り、ナチュラルワインであっても二酸化硫黄の添加は可能なので、ある程度までは品質を維持したまま甘口に仕立てることは実は問題ないのです。実務的に言ってしまえば、70 mg/l の二酸化硫黄を最大量まで添加する前提で醸造するのであれば、中辛口くらいまでなら品質を維持しつつ造れます。
ではなぜ前回の記事では残糖を残さないのが理想と書いたかというと、それはあの記事のテーマが“二酸化硫黄無添加ワインの作り方”であったからです。
二酸化硫黄を無添加で醸造するのであれば、品質を維持するために残糖は残せません。ただ一方で、二酸化硫黄無添加の甘いワインが造れないか、というと、そんなことはないのです。いろいろ問題が起きる可能性が高すぎて私個人であれば絶対に造りませんが、造ろうと思えば造れます。こちらの記事で書いたとおり、発酵をコントロールすればいいだけの話です。
発酵と残糖に関する記事はこちら
辛口にできなかったナチュラルワインも存在する
また、ワインメーカーが意図しないところで甘口になってしまったナチュラルワインというものも存在しえます。
これは、辛口にできなかったワイン、と考えていただいてもいいです。これはつまり、発酵をコントロール仕切れずに途中で発酵が止まってしまったために残糖が意図したよりも多く残ってしまった、ということです。ちなみにこのような事態は別にナチュラルワインに限りません。どのようなワインにおいても発生しうる問題ですが、特にナチュラルワインでは発生しやすい、というだけのことです。
なぜナチュラルワインでは特に発生しやすいか、というと、このワインカテゴリーの定義にもあるように、発酵を野生酵母のみで行っているためです。
以前の記事にも書きましたが、野生酵母とは管理ができない酵母です。当然、発酵が中断するリスクは乾燥酵母に比較してはるかに高くなります。また仮に酵母の活動量が低く、発酵が中断するリスクがあってもできる対処が限られてしまっていることもこのワインカテゴリーにおけるリスクとなっています。ただ、このようなリスクをリスクとはとらえずに、自然に任せて果汁を発酵させ、もしそれが自然に止まってしまうのであればそれもまた自然の摂理、と受け止めるのがナチュラルワインメイキング、と言ってもいいのかもしれません。
発酵のコントロールに関する記事はこちらもご覧ください
⇒ 野生酵母の功罪
ナチュラルワインは長期保管に向かない?
自然の摂理、といえば聞こえはいいのですが、非常に意地悪な見方をするのであれば失敗作です。
というのはさすがに言いすぎで、いろいろな方面に全力でケンカを売っているに等しい過激な表現なのですが、品質的に不安定であることに違いはないのも厳然とした事実です。通常、甘口のワインは二酸化硫黄を使用することでその品質を安定化しています。このため、仮に発酵が中途半端に終わってしまって残糖が残ってしまったナチュラルワインは同様の手段による安定化ができない、という意味で品質的に不安定で、それこそスパークリングワインのように瓶詰後に瓶内で再発酵をしないとは言い切れないのが現実です。
実際にナチュラルワインを抜栓してみたら泡立っていた、もしくは吹きこぼれた、というのは笑えない笑い話として意外によく聞く話でもあります。人によってはナチュラルワインは噴いて当たり前、とまで言うこともあるくらいです
すべてのナチュラルワインがこのような状況になるわけでは当然ありませんが、再発酵はしないまでもこのカテゴリーのワインをほかのワインと見比べた時に、比較的酸化しやすいのは仕方のないことです。ただ、以前のこちらの記事でも書いた通り、ナチュラルワインというよりも二酸化硫黄を極力添加しないワインにおいては、その品質を守るためには酸を残すことが重要なので、酸化、熟成を通して酸が落ち着き、より飲みやすくなることはそれはそれで間違いがないことでもあります。
このような背景からナチュラルワインの飲み頃の判断についてはより難しいものがありますが、そうは言いつつも、このカテゴリーのワインに関してはあまり長期に保管せず、比較的早いタイミングで楽しまれることをお勧めします。