日本でもドイツでも年末年始は普段に増してアルコールを飲む機会が増えます。機会が増えれば飲む量も自然と増えるもの。
今回はそんなアルコールの分解と、上手に二日酔いを避けるための方法についてです。
アルコールはどう分解されるのか
ワインをはじめとしたアルコール含有飲料を飲むことによって体内に摂取されたアルコールは基本的に肝臓で最終的に水と二酸化炭素にまで分解され、尿として対外に排出されます。この時に実際にアルコールを分解する役割を負っているのが肝臓内に存在する各種酵素です。
なお、アルコールの分解は加水分解反応だとよく誤解されがちのようですが、実際は酸化反応によって行われています。
アルコールの分解経路
肝臓内においてアルコール (CH3CH2OH: エタノール) はまずはアルコール脱水素酵素 (ADH) によってアセトアルデヒド (CH3CHO) に分解され、その後にアセトアルデヒド脱水素酵素 (ALDH) によって酢酸 (CH3COOH) に分解されます。酢酸はアセチルCoA合成酵素の働きなどによって水 (H2O) と二酸化炭素 (CO2) になります。
各時点における反応は以下のようなものになります。
なお、アルコールの代謝や酔いのメカニズムについてはキリンビールのサイトが詳しいので、こちらも参考にしてみてください。
参考
アルコールの代謝可能量
上記のような経路を経て分解 (代謝) されるアルコールの量はおよそ体内に摂取されたうちの90%程度と言われます。また、時間あたりにできるアルコールの代謝量は体重との関係があり、ざっくり見てやると1.05mg/kg/hrとされています(個人差が大きいことに加え、論文によってさまざまな数字があげられています)。
これは、体重40kgの人で1時間あたり約4g、60kgの人なら1時間あたり約6gのアルコールを代謝によって体内から消失させることができる、ということになります。
アルコール4gはどんな数字か
1時間にアルコールを4g代謝することが出来る、というのは具体的にどのくらいのお酒の量になるか、すぐにわかる人は実際は少ないのではないでしょうか?
ここで具体的にアルコール濃度 (%) とアルコールの量 (g) を比較してみたいと思います。
5.5% = 4.3g / 100ml
10.0% = 7.9g / 100ml
13.5% = 10.7g / 100ml
これがアルコールの濃度と量の関係です。100mlというのはワインで言えばグラス一杯よりもわずかに少ないくらいの量になります。つまり、体重40kgの人がビール (アルコール度およそ5.5%) でワイングラスに少なめに一杯飲むだけでその摂取アルコールの分解には1時間かかる、ということです。
日本人には多い酵素の不活性
よく日本人は体質的にアルコールに弱い、というようなことも言われます。これは、実際にアセトアルデヒドを分解するためのアセトアルデヒド脱水素酵素の不活性率が日本人では欧米人に比べて高くなっているために言われることです。アセトアルデヒドはエタノールと比較して10倍以上毒性が強いといわれています。アセトアルデヒドはいわゆる二日酔いなどの原因となる物質であることからも、この酵素の活性が弱いことはそのままお酒に弱く、酔ったり二日酔いになったりしやすい、ということになります。
また、体内に摂取されたアルコールの代謝は消化管での吸収や睡眠によってもその速度が遅延することが分かっていますので、実際のアルコールの代謝には上記の例に出した時間よりもより長い時間がかかることになります。
水は二日酔いを防止するのか?
お酒を飲む時には水を飲むと二日酔いになりにくい、とも言われます。では水がアルコールの代謝を助けているのかといえば、実際のところは少し様子が違います。
まずアルコールの代謝は加水分解ではなく酸化反応ですので、ここに水が直接的に関与する余地はありません。
一方で、アセトアルデヒド脱水素酵素、ALDHは活動時に大量の酸素を消費しているため、この酸素の供給に水を利用していることから水を多く飲んだ方がいいと言われていることもあるようです。
水の役割は脱水症状の軽減
しかしその酵素の働きを助けることよりももっと直接的に水が役立っている場面があります。脱水症状の軽減です。
アルコールは利尿作用を持っています。確かにビールにしてもワインにしても含まれるアルコールは数%程度でその大部分は水ではあるのですが、実際のアルコールの利尿作用は50gあたり600ml~1Lほどあるといわれています。
つまり、アルコール度数13.5%のワインをグラス2杯、250mlほど飲むとすでにワインに含まれている水分量では利尿作用に対して少なくなり、脱水気味となります。脱水症状は酔いや二日酔いの原因となりますので、水分をとることで二日酔いが防止できる、というのは正しいのです。
それ以外にもある水の効用
お酒に対する酔いは基本的には血中アルコール濃度の上昇によって引き起こされています。上記で体重がアルコールの代謝に影響する、というのもこれが理由で、体重が重い、ということは体内の血液量が多いということであり、必然的に同じ量のアルコールを摂取しても血中アルコール濃度が上がりにくい、ということを意味しているわけです。
飲酒中に水を飲むことによってアルコールの吸収を妨げ、この血中アルコール濃度の上昇を抑制することができることも、お酒と一緒に水を飲むことの効用といえます。
また、単純にチェイサーとして水を飲むことでお酒自体の飲酒量を下げられることも直接的な効能の一つです。
おまけ: それでも二日酔いに困ったら
飲酒中には十分な水を飲むようにしていても二日酔いになってしまう。そういうお悩みをお持ちの方もいることでしょう。
そうした方は、L-システインの摂取をしてみてもいいかもしれません。
L-システインとはアミノ酸の一つです。メラニン色素に働きかける特性を持つことからシミやソバカスの治療薬の成分として使われています。エスエス製薬から販売されているハイチオールCなどはこの代表例といえます。
一方でこのL‐システインはアルコールの分解に関わる酵素であるアルコール脱水素酵素とアセトアルデヒド脱水素酵素を活性化させることが分かっています。前述の通り二日酔いの原因はこれらアルコール代謝酵素が十分にアルコールやその中間体であるアセトアルデヒドを分解できていないことです。
このため飲酒前や飲酒中、もしくは飲酒後にL-システインを摂取しておくことで酵素を活性化してやればそれだけ体内に残留するアルコールやアセトアルデヒドの量が減り、二日酔いに悩まさせる可能性を低く抑えることが期待できるのです。