先立って「ワイン醸造の暗部?補糖は悪なのか | シャプタリザシオンをめぐって」というワインの補糖に関する記事を公開したところ、
補糖の有無よりも補糖することによるワイン内の糖分の量が気になる、ぶっちゃけ、補糖したワインは太る気がする
という旨のコメントを複数名の方からいただきました。
先日の記事でワインに補糖していることを告げるともれなくお客様からトーンダウンされることを嘆いてみせたのですが、補糖が原因で太るということならそれも納得です。
間接的とはいえ、このワイン太るよ、と言われて喜べる人はいないですよね。
では実際に補糖をすることによってそのワインは太りやすいワインになってしまうのでしょうか?
今回はそんな、補糖とワインのカロリーについて考えてみたいと思います。
前回の記事はこちらからどうぞ。
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ワイン醸造の暗部?補糖は悪なのか | シャプタリザシオンをめぐって
日本酒における醸造用アルコールの添加、ワインにおける補糖。 これらは随分と敵視されていることが多いように感じます。行ってみれば醸造酒の暗部、アンタッチャブルな領域、という印象でしょうか。 おそらく日本 ...
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問題は糖分の行きつく先
補糖の有無にかかわらず、ワインの原料となるブドウの果汁に含まれる糖分の行きつく先は以下の2つです。
残糖 (糖分)
アルコール
ブドウの果汁に含まれる糖分はそれが天然由来であろうと補糖によるものであろうと、発酵時に使用されてアルコールになるか、発酵時に使用されずに糖分のまま残るかのどちらかです。
メモ
本当に細かいことを言えばアルコール発酵時にはこれ以外にも主副を含むさまざまな発酵生成物が生成されますが、量も微量ですので今回は注目しません
補糖による糖分はアルコール一択
先日の補糖の記事でも書きましたが、補糖により添加された糖分は
100%アルコール発酵に使用されなければなりません
100%、です。
これは法的にも守らなければならない義務ですので、“主に”とか“ほとんどが”といった枕詞はつきません。全量です。
そのために補糖に際しては添加量を厳密に計算し、必要量のみを計量して添加します。
つまり補糖によって添加される糖分に関してはその行きつく先は
アルコールのみ、一択
となります。
気になるのは糖分かカロリーか
体重にしても体調にしても自身の身体を管理する上で重要視する視点というのは人によって異なります。
仮に一日の摂取「糖分量」を厳密に考えられている方であれば、補糖による糖分量の上昇という懸念は払拭していただいて構わない項目です。補糖による糖分は残糖にならないからです。
参考
記事でよく使っている“残糖”という言葉ですが、これはワイン内に含まれる糖分量のことを意味しています。より厳密に言えばワイン内に含まれる“発酵可能な糖分量”のことです。
発酵可能な糖分というのはグルコース (glucose)、フルクトース (fructose)、もしくはこの両者が結合したサッカロース (saccharose、いわゆるショ糖)のいずれかなので単純に砂糖の量と考えていただいて問題ありません
補糖していようがいまいが、辛口のワインを選択していればワインから摂取される糖分量は低く抑えることが出来ます。
メモ
ドイツワインでは辛口のワインに含まれる残糖は最大で9 g/lとなります。
詳細は「ワインの味に関する規定」をご覧下さい
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ワインの味に関する規定
ワインの味に関する規定、と聞くとなんのことか分からないかもしれませんが、これは単純にどういうワインを辛口といったり甘口といったりするのか、というお話です。 この味に関する規定というものは国ごとに違いが ...
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太るかどうかはカロリー次第
何をいまさら、と言われるかもしれませんが、太るかどうかは摂取カロリー量に関係します。
そしてこのカロリーを考えるときには残糖とアルコール、そのどちらも無視することはできません。両者とも高カロリー成分だからです。
以前書いた「太る?太らない? ワインのカロリー | ワインあるある」という記事で詳細に触れているのですが、
アルコール: 7 kcal (キロカロリー)/g
糖分: 4 kcal/g
です。
この数字に基づいて一般的によくあるワインとして、アルコール度数12%で残糖が10 g/lのワインのカロリー量を計算すると、グラス1杯100mlでおおよそ67 kcalとなります。
ちなみにアルコール度数14%、残糖量4 g/lというワインの場合には100mlあたりのカロリーはおよそ78 kcalです。
厳密に言えばアルコールおよび残糖以外からくるエネルギー量がこれに加わりますので、実際にはいずれの場合にも含有されるカロリーの量はもう少し多くなりますが、一概に100mlで70~85 kcalと思っておけばそうそう大きく外れることはありません。
糖よりアルコールが高カロリーのなぜ
アルコールと糖のそれぞれの含有カロリー量が
アルコール: 7 kcal/g
糖分: 4 kcal/g
であることはすでに繰り返し見てきました。
ここでもしかしたらアルコールの原料であるはずの糖分よりもアルコールの方が高カロリーであることに疑問をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。
この点を詳しく理解するには化学、特に生化学の分野の知識が必要になります。これをすべて詳細に解説することはここではしませんが、かなり単純化したうえで端的に理由を述べると、
アルコール発酵過程において1分子のグルコースあたり2分子のATP (Adenosintriphosphat) が生成されるから
ということになります。
少々乱暴ではありますが、ATPとは細胞における高エネルギー保有物である、とここでは理解しておいていただければ十分です。
1つのグルコースあたり倍の量の高エネルギー物が生成されるので、カロリー数がおおよそ倍になるんだ、ということです。
補糖したワインは太る、は本当であり誤解でもある
ワインの醸造過程において補糖を行うことは、必ずワインのアルコール度数の上昇につながります。
場合によっては多めの残糖を残すために不足するアルコール量を補填する目的で補糖を行う場合もあります。この場合はアルコール度数だけでなく、ワインに残る残糖量も増えます。
いずれの場合においてもカロリーの元となるアルコールも糖分も増えていますので、十分に太る原因となりえます。
アルコールはエンプティカロリーだから、という話を持ち出す人もいると思いますが、アルコールはともかく糖分はエンプティカロリーではなく立派なカロリーですので残念ながら即吸収されますし、仮にエンプティカロリーとしたところでアルコールの分解中は別のものから摂取されたカロリーは消費されずに吸収されますので結果的には同じことです。
一方で、
補糖したから太る
とするのは間違いです。
補糖していようがいまいが、同じアルコール度数と残糖量を含有するワインであれば結果は同じです。そこに補糖の有無は関係ありません。
補糖したから含有カロリー量が増えた、という言説は、あくまでも補糖しなかったもとの状態の果汁を発酵させて造ったワインに対してのみ有効なものです。
なんなら熟度の低いブドウに補糖して造ったアルコール度数10%の辛口ワインの方が、よく熟したブドウから造った補糖なしのアルコール度数14%の辛口ワインよりもよほど低カロリーです。
そしてここが重要なのですが、一般にアルコールの補填量に上限が設定された補糖ありのワインよりも天然で完熟させたブドウから造られた補糖なしのワインの方がアルコール度数も残糖量も多くなる傾向にあります。
つまり、補糖していないワインの方がよほど高カロリーである可能性が高いのです。
参考
アルコールの分解およびエンプティカロリーについてはそれぞれ以下の記事も参考にしてみてください
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二日酔いを避けるために。アルコールの分解を知ろう!
日本でもドイツでも年末年始は普段に増してアルコールを飲む機会が増えます。機会が増えれば飲む量も自然と増えるもの。 今回はそんなアルコールの分解と、上手に二日酔いを避けるための方法についてです。 アルコ ...
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#ワインあるある の記事として、
「ワインは太る?太らない?」
を #note 上にて移行公開しました
少しでも「へー」っと思っていただけたならRTしていただければ嬉しいです#ワインは太るのか #エンプティカロリーhttps://t.co/xGnUjytaSP
— Nagi@ドイツでワイン醸造家 (@Gensyo) August 4, 2019
今回のまとめ
補糖したワインは太る、というのは間違いです。
アルコール度数の高いワイン、残糖量の多いワインが太るのです。そこに補糖の有無は無関係です。
仮に補糖していてもアルコール度数が低く残糖が少ないワインであれば太る可能性はより低くなります。
ワインの飲むことで体形がふくよかさを増すことを嫌う方は、ぜひ補糖の有無ではなく、そのワインに含まれるアルコール量と残糖の量にのみ注目してワインを選んでください。選ぶべきは低アルコール度数の辛口ワインです。
きっと、美味しいものほど体に悪い、という現実に打ちひしがれることになると思います。