前回はグリューワインの歴史や作り方を見てきました。
ほっとするような温かさと、ちょっとピリッとするスパイスの風味を感じつつもほのかな甘さで思わず一息ついているとふと疑問に思うことがいくつかあります。グリューワインのアルコール度数ってどれくらいなのか、いつ飲むものなのか、そもそもグリューワインってワインなのか?今回はこんな疑問の数々に焦点を当てていきたいと思います。
グリューワインは”ワイン”なのか?
グリューワインはワインをベースにしてはいますが、複数の香辛料や砂糖、もくしはハチミツによって味を整えられたものです。そして、現在ドイツで施行されているワイン法ではこのグリューワインのような、味付けをしたようなものは「ワイン」とは定義しない、と明確に規定されています。
このため、グリューワインは名前にこそ「ワイン」とついてはいますが、少なくともドイツにおいては飲料としてのカテゴリーはワインではなく、アルコールを含有したホットドリンク、もしくはカクテルの一種、という扱いになります。少しややこしいですが、グリューワインを「ワイン」として販売してしまうとそれは違法、ということになるわけです。ちなみにワインを加温してホットワインとして飲むこと自体に法律的な規制はありませんので、仮に露店で純粋に加温しただけで何も味付けや香り付けなどはしていないホットワインを販売するときにはそれは「ワイン」として販売することが可能です。
ただ、加温することで一部の芳香性成分は揮発してしまいますのでもともとのワインが持っていた繊細な香りなどは失われてしまうケースが多くなります。あくまでも「ワイン」として飲むのであれば、ホットワインという飲み方はあまり美味しいワインの飲み方とは言えないと思います。
グリューワインのアルコール度数って何度なのか?
グリューワインを飲んでいて、そのアルコール度数が気になったことはないでしょうか?
一見するとグリューワインは加温しているためにアルコールが揮発していて、アルコール度数は低くなっているように思えます。しかし、これは非常によくある誤解です。グリューワインのアルコール度数は一般的なワインと比較して、決して低くはありません。というのも、グリューワインの作り方を紹介した前回の記事、「グリューワインというワインの飲み方」でも作る際の注意点として書いたことですが、グリューワインの加熱は必ず78度以下に留められている必要があるからです。
この78度という温度は、ワインに含まれる主要なアルコール成分であるエタノールの揮発温度です。この温度を超えて加熱するとアルコールは揮発するため、ワインに残るアルコール度数は低くなります。逆に言えば、この温度を超えない限りは理屈としてはアルコールは揮発することがなく、したがってアルコール度数も変わりません。むしろ、水分が揮発している可能性があるため、かえって濃縮され、アルコール度数がもとのワインの時点での含有量よりも微妙に高くなっている可能性さえあります。
またグリューワインの飲み方の一つとして、100㏄ほどのグリューワインに2㏄ほどラムやリキュールを入れて飲む、ミットシュス (mit Schuss) という飲み方があります。この飲み方をすると、グリューワインにコクや風味が加わって美味しいのですが、当然ながらアルコール度数は明確に高くなります。
グリューワインは香辛料や砂糖、ハチミツなどで飲みやすく味を調えられているため、知らず知らずのうちに量を飲んでしまって気が付けばかなりいい感じに酔ってしまっている、なんてこともあり得ます。グリューワインを飲むときには、量にちょっとだけ注意が必要かもしれません。
グリューワインはクリスマスの飲み物なのか?
これもまた、よくある疑問ではないでしょうか?
確かに例えばここドイツにおけるグリューワイン消費の最大の山場はクリスマスマーケットが立っている、アドヴェントの期間です。クリスマスマーケットは12月23日で、早ければ前日の22日には終わりますので、これ以降はめっきりグリューワインを見かける機会も減ります。このため、グリューワインを飲むのはクリスマス、という印象を持ちやすいのだと思います。
しかし、実際はグリューワインを飲む時期にはこれといった明確な線引きはありません。言ってみれば何となくお正月に飲むような印象が強いけれど実際は寒くなってくると登場してくる季節の飲み物である日本の甘酒と同じで、寒い期間中は時期を問わずに飲まれているものです。
ただグリューワインとセットになって有名な、町や年によってデザインが変わるグリューワインカップは基本的にクリスマスマーケットで使われているものです。ですので、クリスマスマーケットが終わってこのカップを見かけなくなると、やはり何となくグリューワインの時期も終わったような気になるのは仕方のないことなのかもしれません。
グリューワインに使われるワインは赤ワイン?
グリューワイン、と聞くと何となく赤ワインのイメージがないでしょうか?
クリスマス、という時期のこともあって、何となく赤いイメージが強くなるのは分かるのですが、実際はグリューワインには赤のものも白のものも、そしてあまり一般的ではないですが、ロゼのものもあります。ただそれぞれのワインの種類によって入れるスパイス類との相性がありますので、それぞれのレシピが少しずつ変わるのは前回の記事に書いたとおりです。
そんな中で、グリューワインとしてのイメージが強いスパイスの効いた味付けのグリューワインというものは基本的に赤ワインベースで作られることもグリューワインといえば赤ワイン、というイメージを補強しているのではないかと思います。
ベースワインにまつわる裏話
なお、スパイスや砂糖、ハチミツなどで香りや味付けがされている、というグリューワインの特徴上、グリューワインに使うベースワインの品質は実はあまり重要ではありません。このため、家庭で飲み切れずに残ってしまったワインや口に合わなかったワインをグリューワインとして再利用する、というようなことも可能です。ただこの場合、あまりに開栓してから時間が経ってしまっているワインだと酸化香が強くなってしまっており、加熱の過程でこの香りが強調されることになってしまいますので、注意が必要です。
なお商業的な裏話として、クリスマスマーケットの屋台などで売られているグリューワインに使われているベースワインは元からそれように準備された安価で品質的にもそれなり、というものが使われるケースが多いのですが、これ以外にもワイナリーのセラーに残っている年代物のワインなどが使われる場合もあります。
屋台で売られているグリューワインからどのようなベースワインを使っているのかを正確に知ることはほぼ不可能ですが、偶然にも珍しいベースワインを使ったグリューワインに出会えたら、それは小さいなクリスマスプレゼント、と言えるかもしれません。
ご自宅でお気軽にグリューワインを楽しみたい方にはこんな商品もあるようです。
養命酒の製造しているホットワインなんてものまであるんですね。飲み比べてみると面白いかもしれません。
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