スパークリングワイン 徹底解説

徹底解説 | スパークリングワインの造り方

01/31/2019

シャンパンに代表されるスパークリングワイン。パーティーなど華やかなシーンでは欠かせない存在です。

この炭酸ガスを含んだ発泡性のワイン、一体どうやって造っているのか疑問に思ったことはないでしょうか?

造り方の説明はよく見かけますが、具体的な工程の流れをおさえて解説している日本語の記事は意外に少ないようです。具体的な造り方を知っているとそれぞれの方法で造られたスパークリングワインの持つ特徴も分かりやすくなります。

そこでこの記事ではそれぞれの製造手法の工程をおさえつつ、そこから生まれる特徴や違いを解説していきます。

なおざっくりとした造り方は「スパークリングワインのいろいろ」という記事で、ドイツにおけるスパークリングワインの味についての規定は「スパークリングワインの”トロッケン”は辛口か?」という記事でそれぞれ解説しています。ぜひ合わせて参考にしてください。

内容に関する注意

各製造方法において記載している熟成などの期間および各種条件は特に断りがない場合、ドイツのワイン法に基づいた内容を記載しています

スパークリングワインの製法と種類

スパークリングワインにはその種類によっていくつか違った造り方があります。

例えば日本でも人気の高いシャンパーニュ (Champagne, シャンパン) 。瓶内二次発酵方式 (伝統的瓶内発酵方式とも) と呼ばれる製法で造られていなければいけません。

製法がいくつも枝分かれしていくので分かりにくく感じますが、最初に抑えるべきことは1つだけです。

それが、”泡”をどういう方法で作っているのか。この方法は2つの方法に大別できます。

ワインに泡を持たせる方法

  1. 炭酸ガスを充填することによって”泡”をもたせる方法 (炭酸ガス注入方式)
  2. 「発酵」によって”泡”をもたせる方法 (二次発酵方式)

1つ目は普通のワイン (スティルワイン Still wine といいます) に炭酸ガスを充填することで発泡性ワインにする方法です。最近人気になっている炭酸水メーカー (ソーダマシン) を想像していただくと分かりやすいと思います。セッコ (Secco)やパールワイン (Perlwein) と呼ばれるスパークリングワインはこの製法で造られています。

これに対して外から炭酸ガスを入れずに造る方法が、2つ目の発酵で生じる炭酸ガスを使って発泡性ワインにする製法です。

スパークリングワインの原料に使われるスティルワインはすでに一度アルコール発酵を終えてワインになっています。このワインをもう一度発酵させて炭酸ガスを生み出すため、この方式を二次発酵方式と呼んでいます。

二次発酵方式にも2つの方法があります。

二次発酵方式にある2つの方法の違いは、2度目の発酵をさせる「場所」の違いです。

二次発酵の2つの方法

  • タンク内二次発酵方式 (シャルマ方式)
  • 瓶内二次発酵方式

2度目の発酵をタンクの中でさせる方法をタンク内二次発酵方式、シャルマ方式と呼びます。これに対して2度目の発酵をボトルの中でさせる製法を瓶内二次発酵方式と呼んでいます。

シャルマ方式で造られるスパークリングワインには、イタリアのスプマンテ (Spumante) やドイツのゼクト (Sekt) やシャオムワイン (Schaumwein)などがあります。

シャンパーニュの製法として世界的に有名な瓶内二次発酵方式ですが、世界各国で造られているスパークリングワインの中でも上位のラインナップのものはほとんどがこの製法で造られています。この瓶内二次発酵方式にも2つの種類があります。

違いは発酵後にワインをボトルから出すか、出さないかです。

瓶内二次発酵の2つの方法

  • 完全瓶内二次発酵方式
  • タンク利用方式 (トランスヴァジール方式 / トランスファー方式)

スティルワインを2度目の発酵をさせるためにボトルに詰めた後、そのボトルのままで出荷まで至るのがトラディショナル方式とも呼ばれる完全二次発酵方式、逆に発酵後に一度タンクにあけてからボトリングし直して出荷する方法がタンク利用方式 (トランスヴァジール方式) です。

注意

完全二次発酵方式という単語はトランスヴァジール方式と区別するために便宜上、使用しているこの記事内での呼称です。一般的に使われている表現ではありませんのでご注意ください

なお話題になることが多い微発泡性のワインに「ペティアン (Petillant)」があります。

これはブドウ果汁をアルコール発酵 (一次発酵) させている最中に発酵の完了を待たずに瓶詰めし、一次発酵で生じる炭酸ガスをボトル内に残すことで微発泡させているものです。メトード・リュアル方式と呼ばれます。発泡性ワインという意味ではこれもスパークリングワインですが、この記事では別物として扱います。

なお、ガス圧が3気圧 (3bar) 以上のものをスパークリングワイン、それ以下のものを微発泡性ワインと呼び分ける場合もあります。

アルコール発酵 (一次発酵) 時に生じる炭酸ガスの量に関しては、「発酵について語ろう」の記事で解説していますので参考にしてください。

炭酸ガス注入法は大量生産可能で高コスパ

製造工程

スティルワイン → 炭酸ガスを注入 → 瓶詰め → 完成

スパークリングワインの製造方法として最も簡単なのがこの炭酸ガスを充填する方法です。

元になるスティルワインに対して単純に炭酸ガスを注入するだけの製造方法です。この方法の特徴は、二次発酵をしないので元になるスティルワインの味や香りといったキャラクターを一切変えることなくスパークリングワインにできる点です。

発酵で生じる澱がでないため、澱引きと呼ばれる作業も不要です。

製造工程が簡単、設備さえ整えれば容易に大量生産可能、品質も安定と三拍子そろった作り方で、コストパフォーマンスの高いスパークリングワインを作るのに向いています。ドイツでセッコ (Secco) とかパールワイン (Perlwein)  と呼ばれるカテゴリーのスパークリングワインは多くがこの製法で作られています。

簡単に高気圧のスパークリングワインも作れてしまうためか、多くの国や地域で瓶内気圧の上限が比較的低く規制されています。ドイツでの上限は2.5bar。日本でよく販売されている炭酸ジュースの気圧が4bar程度ですから、微発泡性ワイン程度のものしか作ることが出来ません。

またこの製法で作られたスパークリングワインは基本的にエチケットに炭酸ガス充填法によるものであることを明記する必要があります

品質が安定するシャルマ方式

製造工程

スティルワイン → ショ糖 (サッカロース: saccharose) と酵母を添加  → タンク内で二次発酵を完了 → 酵母上で90日以上熟成 → 澱引き → 味の調整 → 瓶詰め → 完成

※ 全体の製造期間が酵母を添加した日から数えて6ヶ月以上であること

タンク内二次発酵方式の最大のメリットは一度に大量のワインを扱うことができることと、その全量を基本的にばらつきなく品質管理することができることです。

炭酸ガス注入方式以外の製造方法では泡を作り出すためにベースとなるスティルワインに酵母を添加する工程が必要です。この時、酵母のエネルギー源となるショ糖も同時に添加されます。

二次発酵で泡を作り出す製造方法では多かれ少なかれ原料のスティルワインとは味や香りが変わります。その理由は次の3つです。

  • 発酵による味や香りの変化
  • 熟成による味や香りの変化
  • アルコール度数の変化

なお出来上がるスパークリングワインの泡の量は酵母と一緒に入れるショ糖の量でコントロールされています。

シャンパーニュの造り方、トラディショナル方式

シャンパンの呼び方で親しまれているシャンパーニュは瓶内二次発酵方式で造られています。

そのシャンパーニュが採用しているのが、二次発酵を行ったボトルの中から一切ワインを出さずに作り上げるトラディショナル方式です。一般に「瓶内二次発酵方式」という場合にはこの製法を指しています。

製造工程

スティルワイン → ショ糖 (サッカロース: saccharose) と酵母を添加  → 瓶詰め → 瓶内で二次発酵を完了 → 酵母上で9ヶ月以上熟成 (※) → 澱引き (ルミアージュ [Remuage] &デゴルジュマン [Degorgement]) → 味の調整 (ドザージュ [Dosage]) → 打栓 (ブシャージュ [Bouchage]) および撹拌 (ポワネッタージュ [poignettage]) → 完成

※ シャンパーニュ方式では澱熟成の期間は最低12ヶ月、酵母の添加から数えて最低15ヶ月かけることが義務付けられている

瓶内二次発酵方式の場合、原料となるスティルワインにサッカロースと酵母を添加するところまではタンク内二次発酵方式と同じです。一方で、この製法ではベースワインは最初から流通用のボトルに瓶詰めされ、すべての製造工程を一貫してそのボトル内で完結します。

よく勘違いされますが、二次発酵の時点ではコルクではなく王冠が打栓がされ、寝かした状態で保管されます。スパークリングワインの製造でよくイメージされる瓶を斜めに傾けて専用の台に差し込む光景は発酵後のルミアージュ作業時のものです。

発酵後、規定の期間熟成を経たスパークリングワインは瓶内に溜まった澱を除去する作業が行われます。この澱を瓶の口に集める作業をルミアージュ、集めた澱を凍らせ抜栓時の噴き出しで除去する作業をデゴルジュマンといいます。

ルミアージュは21日 (ドイツ) から42日 (シャンパーニュ) かけて45度から90度左右に回転させながら徐々に瓶の角度をつけていきます。こうすることで澱をゆっくりと瓶の口先に集めます。続いてデゴルジュマンされたボトルには「門出のリキュール (テラリキュール)」と呼ばれる、ワインにサッカロース (多くの場合はサトウキビ糖) を溶かしたリキュールを添加して味の調整をします。これがドザージュです。

二次発酵を終えた時点でのスパークリングワインは基本的に残糖のない、辛口のものに仕上がっています。ドザージュはこうした辛口のスパークリングワインの残糖調整を目的としたものですが、時にはベースワインとは異なるワインを使って別の香りや味を加える目的で行われる場合もあります。

ドザージュで味と香りが調整されたボトルは速やかにコルクで再度打栓され、ポワネッタージュと呼ばれる撹拌工程で瓶内を均一化してから再度の熟成期間に入れられます。

スパークリングワイン生産にも機械化の波

ルミアージュに多くの人出と時間をかけていたのも今はもう昔のこと。

スパークリングワインの製造現場といえばピュピトルという穴のあいた、斜めに傾いた板にボトルを挿してある光景を思い浮かべる方も多いと思います。この光景は現在はもうほとんど見かけません。ルミアージュは多くの場合、20日も40日もかけることなく一週間程度で完了します。

この大幅な時間の短縮は、ジャイロパレットを使って大量のボトルを1日24時間、週7日休まずに処理することで可能になります。

ジャイロパレットは1機に500本程度のボトルをセットできます。しかもこの機械を使用しても品質の変化はないとされています。このため現在では生産本数の多い大手を中心にほとんどが手作業によるルミアージュを廃止し、ジャイロパレットによる機械化をしています

高価なスパークリングワインは瓶内二次発酵

シャンパーニュは瓶内二次発酵で造ることが義務付けられています。ドイツでもゼクトでも高ランクの特別なものはやはり瓶内二次発酵で造らなければいけません。シャンパーニュが法的に製造方法を義務付けている理由の一端は伝統の保護ですが、多くの場合で瓶内二次発酵でスパークリングワインを造る理由は別にあります。

トラディショナル方式の最大のメリットは言い方は悪いのですが、マーケティング的に有利なのです。

伝統的な製法であることに加えて、世界的な知名度のあるシャンパーニュが採用している製法である、という看板は消費者に対して非常に大きな影響力を持っています。またボトル1本1本を手作業で扱っており時間と手間がかかる製法である、というイメージもこの場合にはプラスの方向に働いています。誰もジャイロパレットを使って500本が一度に管理されているとは思いません。

なお当然のことですがトラディショナル方式で造られたスパークリングワインの全てがシャンパーニュと同等の品質を実現できるわけではありませんし、そもそも瓶内二次発酵はボトルのなかで二度目の発酵をさせた、という事実のみを示しているだけでそこから造られるスパークリングワイン品質を保証しているわけではありません。瓶内二次発酵 = 高品質という構図は単なる思い込みに過ぎません。

瓶内二次発酵だから美味しい、は本当か? | ワインあるある

個体差の際立つ製造方法

この製法の良くも悪くも最大の特徴が、ボトルによる個体差が生じやすい点です。

二次発酵の時点から熟成、澱引き、ドザージュ、出荷まですべての製造工程が独立した個々のボトルごとに行われるこの製造方法。どの工程でも生じる可能性のある各種の反応や影響による変化もボトルごとに独立しています。1本1本のボトルの個体差は造り手にも完全に把握することは出来ません

このボトルごとの個体差を均一化することは、事実上、不可能です。

この解消することのできない個体差の存在をメリットと捉えるのかデメリットと捉えるのかはそれぞれの造り手の考え方次第となります。

ボトルの個体差を解消するトランスヴァジール方式

製造工程

スティルワイン → ショ糖 (サッカロース: saccharose) と酵母を添加  → 瓶詰め → 瓶内で二次発酵を完了 → 酵母上で90日以上熟成  → タンクに移し替え → フィルターによる澱引き → 味の調整 → 瓶詰め → 完成

※ 全体の製造期間が酵母を添加してから9ヶ月以上であること

トラディショナル方式では避けられないボトルの個体差をなくす製法、それが「トランスヴァジール方式」です。

トランスヴァジール方式は二次発酵および澱熟成を瓶内で行うところまではトラディショナル方式と同じです。違うのはここからで、発酵後の熟成が終わったボトルは一度中身を澱ごとタンクに入れてしまいます。すべてのボトルの中身を混ぜた上で澱引きをし、再度ボトリングをします。

二次発酵と熟成で生じた各ボトルごとの違いを一度タンク内で混ぜてしまうことでなくし、すべてのボトルで品質を均一にするのがこの製法の最大の特徴です。

一般的に澱引き前にタンクで混合し、その後にまとめてろ過しますのでルミアージュやデゴルジュマンの手間や時間、瓶を保管する場所が必要ない点も製造上の特徴といえます。なおこの製法を採用したスパークリングワインでもラベルには「瓶内二次発酵」と記載することが可能です。

今回のまとめ | 大事なのは泡の有無より味や香りの変化

スパークリングワインでは泡は大事ですが、発泡させるだけなら炭酸ガスを注入すればことは済みます。

しかし実際には炭酸ガス注入法は上限気圧の設定を通して使用が制限されています。泡が出ればそれでいいわけではないからです。

造り方の点で本当に大事なのは泡を得る過程で生じる味や香りの変化です。

味や香りの変化にもっとも影響を与えるのが、二次発酵後の澱熟成の工程です。各製法をよく見ていただくとお気づきかもしれませんが、各製法の違いはこの影響の大きさの差でもあります。一般的にこの影響がより出やすい製法がより価値のある製法とみなされています

多くの量をまとめて発酵、熟成させるシャルマ方式よりも瓶内二次発酵方式の方が味や香りの変化に差が出やすくなります。同じ瓶内二次発酵方式でもトラディショナル方式とトランスヴァジール方式とでは最終的なボトルでみればトラディショナル方式の方が発酵や熟成による味や香りへの影響は分かりやすいです。「いいスパークリングワイン」はほぼすべてがトラディショナル方式を採用する一方で、発泡性は持たせられても味や香りに変化が出ない炭酸ガス注入法は安価な手法の代表格です。

製法とは別に、熟成にかける時間の長さも味や香りの変化に大きく影響します。熟成期間が長いほど一般的は変化は大きくなります。

こうした理由から、スパークリングワインではより変化が分かりやすいトラディショナル方式、その中でも変化の量が大きくなる長い熟成期間を経たものが基本的にはよりよいものとされているのです。

スパークリングワインを造る場合には造り手の思惑が入り込みます。伝統的な手法で造りたい。通常は重要視される味や香りへの変化はむしろ抑えたい。短時間で大量に造りたい。その内容は様々です。そして味や香りに変化が出ることが、もしくはそれが分かりやすく提供されることが必ずしもいいことだとは言い切れない部分もあります。こうした思惑、考え方の違いが採用する製造方法の違いにつながります。

この点を抑えた上でスパークリングワインのグラスを傾けていただくと、そのスパークリングワインがどのような考え方に基づき、どのような点に注力して造られたものなのか、もう一歩踏み込んで楽しんでいただけるのではないでしょうか。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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