ドイツのブドウ畑、というと、急斜面に沿って垂直方向に作られた畑をイメージする人が多いようですが、ドイツ語で”Terrasse (テラッセ)"と呼ぶ、斜面に対して水平方向に段々畑を作っていく方法も実際には多く取り入れられています。今日はそんな、Terrasseに注目してみたいと思います。
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Terrasseとはどんな畑なのか
ドイツ語のTerrasseとはそのまま、テラスや段差のある状態のことを意味しています。
ブドウ畑に関しても同様で、山の斜面を段々畑のようにし、その段差の谷側の縁に沿ってブドウの樹を植えて作った畑のことを指しています。この段差の山側の部分に関しては石を積んだ石壁のようにしているところもあれば、削った斜面そのままに土がむき出しになっているところもあります。
このTerrasse、遠目に見ると山の斜面に対して横縞のように緑のラインがはいって見えるため、緑が縦縞にはいって見える通常の斜面に沿った畑とはひと目で区別がつきます。
なぜTerrasseなのか?
Terrasseにするメリットは、なんと言っても作業性の向上にあります。
Terrasseにすることで斜面の畑にもトラクターなどの車両を入れることが容易になるため、各種作業や収穫時における負担が通常の斜面の畑と比較して段違いになります。またこの他にも、段差にすることによって風雨による土壌の流れ出しを防止しやすくなりますし、土壌が流れないことにより土壌環境の改善を促しやすくなります。また斜面を段差状にすることによってその場所の微小気候にも影響が出ます。
Terrasseにするデメリット
一見すると仕事がやりやすくなり、土壌環境も良くなるなどTerrasseにすることのメリットはとても大きいようにみえますが、必ずしもTerrasseにすることがいいことばかり、とは言えないのが現実です。
Terrasseにすることによるデメリットはいろいろありますが、その中でも最たるものが耕作面積の縮小と、大きな初期コストです。
Terrasseの耕作面積は小さくなる
斜面を削って段々畑にすることでトラクターなどを走らせることの出来るスロープを設けることが出来るようになりますが、このことによって耕作可能面積がかなり減ることになります。これは斜面の斜度にもよるのですが、多い場合には60%以上の減少となる場合もあるほどです。このことは当然、面積あたりのブドウの作付け量の減少に繋がり、そのまま面積あたりの収量の減少に繋がります。余程土地や畑を多く持っている場合でもなければ、簡単には無視できない点です。
初期投資がとにかく大きい
また、当然ですがTerrasseは斜面を削って作る必要があるため、初期投資が非常に大きくなることもデメリットです。
ただ一方で、斜面にトラクターなどの機械を入れることで改善される作業効率が30~40%程度と計算されていますので、この点に関しては中長期で考えれば十分に回収可能なコストと見ることが可能です。もっともTerrasseにはTerrasse独特のメンテナンスが必要な部分があり、これらにもコストがかかるため、耕作面積の縮小と合わせて全体コストの回収にはそれなりの期間が必要となります。
なお上記のTerrasseのメリットとしてあげた微小気候の変化から来ることでもあるのですが、斜面を削って段差を設けることによって山頂から流れてくる冷気がその段差部分で溜まってしまい、それが冷害の原因になる可能性もあるとされている点もデメリットといえなくもないことでしょう。
それでも魅力的なTerrasse
最近では人件費も高くなり、人手を多く確保して畑の手入れをしていくような方法はしにくくなってきています。このため様々なデメリットが有りつつも作業の機械化がしやすく、少ない人手で済むTerrasseは斜面におけるブドウ栽培においてはそれなりに魅力的な選択肢となり得るのです。
すでに斜面に垂直方向に作られている畑を後からTerrasseにしていくことはとても大変なためなかなか踏み切るワイナリーはありませんが、それでも斜面におけるブドウの樹の植え替え時期に合わせて畑の形状を変える決断をする例が無いわけではありません。一方で、一度Terrasseにしてしまうとそこから元の斜面に戻すことはほぼ不可能です。
この理屈でいくとTerrasseばかりが増えていっているように思えるかもしれませんが、実際には土地柄が出ていて、ある地域ではTerrasseはほぼ見かけないのに別のある地域ではTerrasseばかり、なんてこともあります。山肌の斜面に作られたブドウ畑の種類を見ながら、なぜそうしたのかを考えてみるのもなかなか面白いのではないかと思います。