先日、クローンに関する記事を書きましたが(関連記事: クローン、、、何かに似ていませんか?)、このクローンという単語と同じくらいブドウ畑の中でよく聞く単語が台木です。今日はこの台木というものに焦点を当ててみたいと思います。
台木とは
そもそも台木とは何でしょうか?
これは読んで字の如く、台となる木のことです。これだけだとなんの説明にもなっていないですね。しかしその一方で、この言葉が台木の全てでもあるのです。
ブドウはクローンのお話しの際に書いたように、挿し木によって増やすことの出来る植物です。挿し木では地面に挿した部分から新たな根が出て、そこから水や養分を吸い上げることで新たに成長をしていくわけですが、この方法以外でもブドウの木を増やしていく方法があります。これが、台木を使う接ぎ木による方法です。
接ぎ木による増殖は、挿し木による増殖に一手間加えた方法です。つまり、増やしたいブドウの枝から直接根を出させるのではなく、一度別の苗の枝とつなげ (接ぎ木)、そのつなげた枝から根を出させるのです。
この方法は接ぎ木の成功率という問題はあるものの、新たな特性をブドウに与えることが可能となります。あまり端的な例とは言えませんが、イメージとしては靴を履き替えることに似ています。靴を履いている人物はいつも同じですが、スパイクが付いた靴を履くことで走ることに強くなったり、滑り止めのついた靴を履くことで雪道や凍った道に強くなったりしているようなものです。この靴に当たるものが、台木なのです。
台木はなんのために
台木が使われるようになった理由は、欧州におけるフィロキセラ (日本名:ブドウネアブラムシ) によるブドウへの被害です。
フィロキセラはもともとアメリカに生息していた昆虫で、欧州にはいませんでした。ところが今から約150年ほど前に、アメリカから輸入された植物についてこの昆虫が欧州に入ってきたことで大混乱と想像を絶する被害がもたらされたのです。ブドウの木の根を食い荒らし次々と木を枯らしていくこの害虫は、またたく間にヨーロッパ全土に広がったと言われています。この害虫により、一時期は欧州からブドウが全滅する寸前まで行ったというのですからその被害のほどが知れます。
それほどに、フィロキセラはブドウにとって大敵だったのです。
前述のとおり、フィロキセラはもともとアメリカ大陸に存在していました。このため、現地の原産品種であるVitis riparia種をはじめとしたアメリカ系品種はこのフィロキセラへの耐性を獲得していたのですが、欧州でワイン造りに使われているVitis vinifera種は耐性を持っておらず、完全な外敵だったために一気に被害が広がることになったのです。 そして、この深刻な外敵に対応するための手段として考案されたのが、アメリカ系品種を台木として使った接ぎ木だった、というわけです。
今ではフィロキセラの再拡大のリスクを少しでも無くすために、アメリカ系品種を台木にした接ぎ木以外の、純粋なVitis vinifera種を栽植することは法的に禁じられています。このことは、この法律が施行された後からは現実的にVitis vinifera種で自根の樹は存在しないことになるため、古い畑でブドウの樹が自根であることが価値のあることとして扱われる理由の一つでもあります。
台木にも品種やクローンが存在する
接ぎ木で接いだ部分(穂木)であるVitis vinifera種の部分がそうであるように、台木にも品種やクローンが存在します。この辺りの状況は台木であろうと穂木であろうと変わりはありません。また、この台木の種類によってブドウの成長過程や、その速度、好む土壌の種類などに違いが出ます。つまり、穂木が仮におなじ品種の同じクローンであったとしても、台木のクローンが異なっていればブドウの成長には差が出てくる、ということです。
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参考
台木の利用はフィロキセラへの耐性を獲得することが第一義ではありますが、ブドウ栽培者は意図的に収穫の時期をずらしたい場合や、自身の管理する畑の土壌に合わせるためなどに、台木の品種やクローンを選択することでその副次的効果としてのメリットを得ることが出来るのです。しかしその一方で、台木やクローンは一度選択し、実際に畑に植えてしまえば、基本的にはその後は数十年にわたって変更することが出来ません。このため、このクローンや品種の選択には慎重を期す必要があります。