先日Twitter上で、リースリングのMLFについてのPostをしました。
行わない、なら分かるけど、行えない、と言ってしまうのは違うかな... <RT
実際のところはMLFしているリースリングもあります
— Nagi@ドイツでワイン醸造家 (@Gensyo) September 25, 2020
リースリングといえば酸が特徴的なブドウ品種でもあるので、酸を抑えてしまう方向に動くMLFはしないものと思われている方も多いと思います。またMLFによって生じるバタースコッチ様の香りがリースリングとは相性が悪いと考えられている点もこのブドウ品種のワインに対してはMLFは行わないと思われる理由の1つです。しかし、上記のPostにも書いているようにMLFを行ったリースリングも世の中には存在しています。
今回はこの、「リースリングワインの醸造におけるMLF実施の意味」について思うところを書いていきます。
リースリングにおけるMLFは醸造上の要請なのか
今回のテーマに関わらず、ワイン醸造において造り手がとる行動は大きく分けて次の2つの判断基準に基づきます。
- 醸造上、必要な行動であるケース
- 醸造上の要請では必ずしもなく、造り手の好みや考え方に基づく行動であるケース
この判断基準でみるとMLFは少し特殊な位置づけにいます。多くの場合、MLFは1つ目のケースに当てはまっています。一方で、リースリングを使ったワインにおいてはこうした醸造的な側面からMLFを行う意味合いは多くはありません。上記の通り、リースリングというブドウ品種の特徴とMLFがもたらす醸造的な意味が必ずしもあっていないと考える醸造家が多いためです。
このためリースリングで行われるMLFはそのほとんどが2つ目の判断基準、造り手の好みや考え方に基づいているものだと判断できます。
リースリングのワインにおいてMLFを実施するということ
そもそもワイン醸造において乳酸菌によるMLFを行う背景には以下のような目的があります。
- リンゴ酸の酸味を和らげる
- 香りの複雑性を持たせる
- 微生物学的な安定性を確保する
造り手が望む目的自体は上記のいずれかのみかもしれませんが、MLFの実施に伴う結果は上記の全てが不可分のものとして現われます。このため、現実問題としてはリースリングを使ったワイン醸造においてMLFを行う理由もまた、上記の3つの効果を多かれ少なかれ得るためといえます。
しかし、実際にはそのようなことはあくまでも結果論であって、重要なのはその背景にある「従来とは違うリースリングのワインを造りたい」という想いなのではないかと私は思います。型から外れたことを良しとする姿勢。これこそがリースリングのワイン醸造においてMLFを行う本当の理由なのではないかと私は考えています。
MLFはより「面白い」リースリングを生み出すか
酸味を丸めたリースリング、もしくはクリーミーな口当たりのリースリング。
これらはいずれも従来のリースリングが持つイメージにそぐわないものです。しかしその型破りな在り方が「面白く」「挑戦的」で、かつそうした取り組みから生み出された従来にはない味は「特徴」だと主張しているように私には思えます。近年見かけることの増えたリースリングによるオレンジワインなどもこれと同じ動きといえるでしょう。
このような取り組み、もしくは在り方自体はその良し悪しが問われることではありません。造り手の、そして飲み手の自由意志の下にその好き嫌いが問われ、選択されるのみです。
皆さんはこうした造り手の姿勢をどのように受け取られるでしょうか?