ワインにはいくつかの分類方法がありますが、その中の1つが色を使った分類です。代表的なのは白ワイン、赤ワイン、そしてロゼワインの3種類。しかしこれ以外にも黄ワイン (ヴァン・ジョーヌ) や黒ワイン、さらには最近ではオレンジワインやアンバーワインの名前がよく聞かれるようになりました。また紫色や水色をした製品も販売されはじめています。黄ワインはジュラ、黒ワインはルーマニア、アンバーワインはジョージアで造られています。
ワインの色のバリエーションを支えているのはその造り方の違いです。使われているブドウの色は白か黒 (赤) の2種類だけです。白、黄、オレンジ、アンバーは白ワイン用ブドウ品種から、赤、ロゼ、黒は赤ワイン用ブドウ品種から造られています。紫や水色はまったく別の造り方をしているため、やろうと思えば白ブドウ品種からでも黒ブドウ品種からでも造ることが出来る、かなり特殊な位置づけです。ちなみにこれらの色をしたものは一般にはワインではなくリキュールとされています。
基本となる白と赤を別にすると、1色を除いて原料となるブドウの色から出発して色味を濃くする方向の造りかたをしています。この唯一例外となる色がロゼです。ロゼは基本的にブドウの色を薄くする方向で造られます。
出来上がったワインの持つ色味と味や香りとの間にはとても強い関係があります。色を濃くすれば香りや味も強くなり、色を薄くすれば香りも味も弱くなりやすくなります。この記事ではロゼワインの色と味や香りの間にある関係をみていきます。
ロゼとは限らないロゼワインの色
ロゼワインと聞いた時、何色のワインをイメージするでしょうか。もしくはどのようなワインをイメージするでしょうか。
もしもプロヴァンスのロゼを思い浮かべたのならその色はとても明るいピンクパール、ボルドーのロゼを思い浮かべたのならほぼ赤というほどに濃い色味をしていたのではないでしょうか。
並べてみたらまったく異なる色同士ですが、どちらもロゼで間違いありません。ロゼワインはロゼ (Rose) という色の名前を持っているにも関わらず、具体的な色味の範囲が決まっていません。ほかの色のワインでは色から名前が決められているのに、ロゼだけは少し違います。赤ワインよりも色が薄く、白ワインほど無色でなければそれでロゼワインとなります。
ロゼワインというワインは実はとても守備範囲の広いワインの総称なのです。
なぜこんなことが起きるのかといえば、その原因はワイン法にあります。例えばのEUのワイン法ではロゼワインとは赤ワイン用ブドウ品種 (黒ブドウ品種) から造られた赤ワインほど色の濃くないワイン、と定義されます。いくつかの国や地域ではロゼワインを赤ワインと白ワインを混ぜ合わせてつくることが認められていますが、その場合にも色は赤よりも薄く白よりも濃いことが前提となっています。出来上がったワインの色は赤ワインよりも薄くさえあれば何色をしていてもいいのです。
さきほどからロゼワインは白ワインよりも色が濃くなければならない、と書いてきています。しかし、赤ワイン用ブドウから造られる白ワインのようなワインであるブラン ド ノワール (Blanc de Noir) も広義ではロゼに分類されます。
つまり、ロゼワインだけは色からつけられた名前ではなくどちらかといえば造り方の分類上つけられた名前だといえます。
ロゼワインにみる香りの種類
とてもバリエーションに富んでいるロゼワイン、個別にみていってしまうと香りや味の方向性に共通点を見つけるのは簡単ではありません。プロヴァンスのロゼには感じない香りや味がボルドーのロゼには感じられる、なんてことは当たり前のように起こります。これはロゼワインに限った話ではありませんが、同一産地内であってもすべてのワインに共通する特性があるということもありません。ワインは行きすぎなほどに多様性に富んでいます。
そうした中でも敢えて分類すると、ロゼワインの香りの傾向には3つのタイプがあります。バナナ様の香りに代表されるエステル系の香り、スパイシーなテルペンやチオール系の香り、そしてより赤ワインのようなフルーティな香りです。
どのタイプの香りが出るかはそのロゼワインの造り方と密接に関わっています。そしてそうした違いを知るもっとも簡易的な方法が色味による判断です。
ここで注意しておきたいことがあります。ワインを実際にテイスティングしてその味や香りを評価する官能評価においてはロゼワインの色と味や香りの間に直接的な相関関係はないことがすでに証明されています。ヒトは一般的に赤いものをみると甘い味を想像し、白いものをみると酸味を強く感じるようになるといわれています。しかしロゼワインの色味と香りや味との間の関係はそうした視覚的な情報による味覚や嗅覚への影響によるものではなく、色調の差の原因ともなる、ワインに含まれる成分の違いによるものだということです。
よりライトな色味はエステル系の香り
バナナや綿飴 (わたあめ) のような香りは主に発酵中に生じるエステル化合物に由来する香りです。この香りが出やすいのが、プロヴァンスで造られているような、明るく色味の薄いロゼワインです。
このタイプのロゼワインでは色味をより薄くするため、抽出と呼ばれるワインの色味を濃くするための作業はほぼ行われません。収穫されたブドウはそのままプレスに入れられ、時間をおかずに搾られます。収穫のタイミングも早めにします。
抽出という作業はワインの色だけではなく、香りや味、特に渋みの元になる成分をワインに持たせるためにも必要となる作業です。このため抽出を行わないタイプのワインでは味が軽くなり、原料となったブドウ品種の特徴もほかの方法に比べて出にくくなります。一方で味でいえば抽出に左右されない酸味はしっかりと出ます。
抽出によって得られるブドウの品種に特徴的な品種香が無抽出にすることによって出てきにくくなるため、香りの主体は発酵中に酵母の代謝によって作られる種類のものとなります。
スパイシーな香りは中間的な色味
収穫後に間をおかずにプレスするのではなく、数時間程度の抽出をかけたロゼワインでは色味がより濃くなってきます。一方で赤ワインというにはまだまだ薄く、ロゼと言われて想像しやすい綺麗なピンク色のものが相当します。
この程度の抽出をかけたワインではスパイシーさやフルーティーさをより感じられるようになってきます。特にシトラスや白桃などの白い果肉の果物を連想させる香りも強くなります。こうした香りの原因になっているのがテルペン化合物やチオール化合物です。チオール化合物は硫化臭の原因ともなる芳香系化合物ですが、同時にワインに感じるミネラル感とも強い相関関係があると言われている物質でもあります。
中程度の色味のロゼワインで軽い還元香を感じたりミネラル感を感じ取ったりすることが多いのはこうした物質が含まれているためです。なおテルペン化合物の抽出量が多くなるとスパイシーさを感じる傾向が強くなります。
フルーティさが強くなる赤いロゼワイン
抽出の時間をさらに長くして色が赤みの強いピンク色くらいになってくると香りがさらに変わります。イチゴやラズベリーといったベリー系のニュアンスが強くなり、それにともなってフルーティさが主体になってきます。
ここまでの抽出をかける場合にはブドウの熟度の高さがより重要になります。赤ワインに使える程度の熟度をもったブドウを使うため総酸量は少なめになり、ロゼワインとしてはフレッシュさが控えめになります。その一方で赤ワインに似たような重厚さが出てくるのもこのタイプのロゼワインの特徴です。
色味がかなり濃くなるまで抽出を強くしたロゼワインでは醸造方法がほぼ赤ワインと同様になるほか、抽出を促進するために酵素を利用する場合も多くなってきます。味や香り、造りかたのいずれからも、ロゼワインとしては上記の2つのタイプとは大きく趣が変わってきます。
見た目を裏切るブレンドロゼワインの可能性
抽出をコントロールしながら造られたロゼワインでは見た目の色味とワインから感じる味や香りの傾向にある程度の関係性が出てきます。一方で、こうした関係性がまったくないケースも存在します。見た目は濃いピンクなのにフレッシュでとても軽い味や香りがする場合や、色味は薄いのにとても香りの強いロゼワインに出会う可能性がある、ということです。
こうしたイレギュラーのようなロゼワインが存在する理由も造り方にあります。主にブレンドによって造られている場合です。ブレンドとはそのままの意味で、2種類以上のワインを混ぜて1つのロゼワインを造っていることを指しています。
ロゼワインの醸造でブレンドをする場合、2つの可能性があります。黒ブドウ由来のワインだけを混ぜる場合と、黒ブドウと白ブドウそれぞれから造られたワインを混ぜる場合です。前者は世界中どこでやっても問題ありませんが、後者はワイン法によって認められている国と認められていない国とがあります。
例えば極めて色の薄いロゼワインに少量の赤ワインを混ぜた場合。もしくは白ワインに赤ワインを混ぜた場合。混ぜた赤ワインの量次第ですが、どちらも明るめのピンクくらいの色調になります。一方でそれぞれのワインが持っている香りや味はまったく変わります。またこれとは逆に赤ワインに色調の明るいロゼワインを混ぜたり、白ワインを混ぜる場合でも同様です。色味はロゼとしては濃く、赤ワインとしては薄いものになりますが、抽出で同程度の色調のものを造った場合と比較すれば多くの場合、より酸味の強い味わいになるはずです。
こうした手法で造られたロゼワインでは、見た目の色からその香りや味を想像することはほぼ不可能です。
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今回のまとめ|ロゼは可能性の広いワインスタイル
ロゼは白や赤と比べるとより気軽に飲める印象の強いワインです。実際に欧米では夏の暑い日によく冷やして楽しまれています。その消費のスタイルは肩ひじ張ったものではなく、日本のビールの消費スタイルに似たような、本当に気楽なものです。
そのような背景からは醸造もあまりこだわりを持たずに行われているような印象を受けますし、実際にそういう場合も少なくありません。一方で、ロゼというスタイルは造り手が本当にこだわろうと思えば非常に多くの醸造的選択肢の中から様々な手法を選んで組み合わせることのできる、きわめて可能性の広いワインスタイルでもあります。ここまで自由度高く醸造に取り組めるのは、おそらくロゼをおいて他にありません。
とはいえ、ロゼワインを造る際にも制限はあります。消費者の方々がイメージするロゼワインというものは色味などの外観がある程度、固まっています。また色が重要視されることから変色を伴ってしまう熟成とは相性が悪く、基本は早飲みワインとして消費されます。このため価格帯が高くなりにくいのもロゼワインの特徴です。仮に造り手側がロゼを造ることにこだりたい場合にも、基本的にはこうした前提条件に従う必要があります。
ロゼワインは赤ワインと比較するとどうしても軽く見られがちなワインです。ワイナリーでもそうした扱いがなされていることがほとんどで、ロゼを赤よりも上に扱っているケースはまず見かけません。確かに赤とロゼを両方リストに持っている場合にはこうした対応になってしまうのも理解できます。
しかし、例えば気象条件などで十分に品質の高い赤ワインが造れないケースにおいてはロゼ造りに本気で取り組む意味が出てきます。色味、香り、味わい。そのすべてをある程度の範囲内でとはいえ、自由に調整できるのは造り手からすればやりがいのある取り組みです。ロゼワイン自体は料理との合わせやすさなどもあり、近年、人気が集まっているスタイルです。そこに対して存在感を示せることはワイナリーにとって大きな意味があることは間違いありません。
ロゼワインの色味と香りや味わいの間には確かにある程度の相関がありますが、それは絶対のものではありません。いい意味でそうした関係性を裏切ったワインを造ることが出来れば、そうした異端性が受け入れられる土壌が白や赤よりも広いのもロゼです。敢えてロゼに挑戦する。その意義は意外に小さくはないかもしれません。
Youtubeチャンネル、”Nagiさんと、ワインについてかんがえる。”でもロゼワインについてお話をしています。ぜひご覧ください。