二酸化硫黄

亜硫酸のはなし | 亜硫酸なのか、二酸化硫黄なのか、亜硫酸塩なのか

ワインに入っている代表的な添加物である酸化防止剤。ある時には防腐剤といわれ、またある時には漂白剤といわれ、またまたある時にはワインを飲んで感じる頭痛の原因ともいわれています。

いかにもネガティブな印象を受ける情報が多い一方で、実は酸化防止剤ってこういうもの、という、その役割や重要さ、ワインに使われる範囲での量における人体有害性の低さを丁寧に説明している情報もまた多く存在しています。結局のところどうなのかといえば、感情的な好悪と一部のアレルギーを持った人に対して以外であれば、使い方をきちんと理解して使う分には基本的には問題ない、というのが大半の専門家の意見です。

ところで、こうした情報のほとんどが説明していないことがあります。結局、酸化防止剤とはどの物質なのか、という点です。

ある文章を読むと二酸化硫黄と書かれます。ワインのバックラベルを見ると亜硫酸もしくは亜硫酸塩と書かれます。では二酸化硫黄 = 亜硫酸 = 亜硫酸塩なのかといえば、これは明確に違います。どう違うのかといえば、化学的に全く別の物質です。さすがにこれが全部同じもの、といってしまうのは乱暴に過ぎます。

この記事では、こんなのワインを勉強した時の基礎の基礎、と思われながらも実は明確に説明しにくい、酸化防止剤の正体について解説していきます。

酸化防止剤は二酸化硫黄

結論から言えば、ワインに添加されて酸化防止剤としての機能を発揮するのは二酸化硫黄です。二酸化硫黄は化学式SO₂の無機化合物で、英語ではsulfur dioxideといいます。基本的には硫黄を完全燃焼させることで得られる化合物です。

この二酸化硫黄、沸点が-10℃と低いため、常温では気体として存在しています。常温化で気体状のまま扱うためには重たい耐圧のガスボンベに封入した状態が必須となるため、非常に扱いにくいものになります。またガスだと取扱者が吸引してしまう可能性も高く、取り扱いリスクも高くなります。ちなみにこのガス、人体有害物です。

危険物を取り扱ううえで少しでも安全性を高く保つには常温状態で固形状にしてしまうことが最も簡単です。そこで二酸化硫黄をカリウムと反応させることで常温下でも固形物として存在できる化合物を精製しました。これがピロ亜硫酸カリウム (Potassium metabisulfite)、またの名をメタ重亜硫酸カリウム、通称メタカリと呼ばれる化学式K₂O₅S₂で表される無機化合物です。

なお二酸化硫黄が人体有害物に分類されているのに対して、メタカリは刺激物としての分類に留まっています。

気体、個体とくれば液体はないのか、と思うのが人の常です。あります。それが亜硫酸です。

亜硫酸 (sulfurous acid) とは化学式H₂SO₃で表される物質で、二酸化硫黄の水溶液中に存在する物質といわれています。つまり、理屈としては二酸化硫黄を液体に溶かすと亜硫酸になります。そして気体である二酸化硫黄を水に溶かして液体として扱えるようにしたものが、まさにこの亜硫酸でもあります。

整理するのであれば、気体の二酸化硫黄、液体の亜硫酸、個体のメタカリ、ということです。

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二酸化硫黄やメタカリは亜硫酸?

食品のラベルに書かれる添加物には原則として添加物の物質名を記載するというルールがあります。そうなるとガスとして添加した二酸化硫黄や粉末状の個体として添加したメタカリも亜硫酸、ということになりそうですが、これは違います。亜硫酸はあくまでも気体や固体ではなく、液体でなければなりません

ところが二酸化硫黄を添加したワインの中をいくら探してもH₂SO₃で表記される亜硫酸は見つかりません。見つかるのは分子状のSO₂と水素と結合したHSO₃⁻、SO₃²⁻、そして別の成分と結合した化合物のみです。これは二酸化硫黄を添加しようがメタカリを添加しようが同じです。実は亜硫酸を添加していても同じです。

ここが面倒なのですが、上記のHSO₃⁻は亜硫酸水素塩イオン、SO₃²⁻は亜硫酸イオンを表します。つまり二酸化硫黄をワインに添加すると亜硫酸自体は見つからないのですが、類似のイオンは見つかります。ちなみにメタカリをワインに添加すると即座にカリウムと二酸化硫黄に分離して、それぞれがそれぞれに反応をしていきます。メタカリを添加していても結果的には二酸化硫黄を直接添加したのと意味的には変わりませんし、添加後のワイン中で見つかるものも変わりません。つまり結果に差は出ません。

これが意味するところは、二酸化硫黄を溶液として添加した場合を除けば、ワインに直接添加したのは亜硫酸ではなく二酸化硫黄もしくはメタカリで、添加したワイン中に存在するのはやはり亜硫酸ではなく類似したイオンだけである、ということです。

二酸化硫黄やメタカリをワインに添加しても亜硫酸が見つからないのに、事前に溶液として水に溶かしたら亜硫酸になるのか、という疑問に関しては今のところ納得できる回答は見つかっていません。便宜上、そういわれている、というのが実情のようです。

メタカリは亜硫酸塩?

突然ですが、亜硫酸塩の「塩」が何を意味しているのか、ご存じでしょうか?

もしこの時に「塩」を「しお」と読むとそれはナトリウムや食卓塩でおなじみの塩化ナトリウムを指します。この場合、亜硫酸塩の意味はNa₂SO₃の化学式で表される亜硫酸ナトリウムであったり、NaHSO₃の化学式を持つ亜硫酸水素ナトリウムであったりします。これらは確かに亜硫酸塩の一種ですが、亜硫酸塩ではありません。

亜硫酸塩の「塩」は「えん」と呼ぶ、化学用語です。

化学の世界における塩とは、陽イオン (カチオン) と陰イオン (アニオン) の結合によって作られる化合物、もしくは酸と塩基の中和反応によって生じる化合物のことです。乱暴にいえば、二つ以上の成分がイオン結合によってくっついて1つの物質になっているものを指します。このため、亜硫酸塩とは結合の中に亜硫酸を含む化合物全般のことを指します。

この理屈でいくとメタカリは硫黄を含むイオン結合による化合物なので亜硫酸塩、といいたくなりますが、亜硫酸塩の前提は化学式SO₃²⁻で表される亜硫酸イオンを含む化合物です。メタカリは化学式にSO₃を含まないことから分かる通り、区分としては亜硫酸塩ではなくカリウム塩という分類に入ります。亜硫酸塩とは、添加されたメタカリに含まれる二酸化硫黄の一部がワイン中に存在する別の分子と結合することで作られる、前述の亜硫酸ナトリウムや亜硫酸水素ナトリウムなどの化合物のことです。

なぜ亜硫酸と表記するのか

ワインに酸化防止機能を提供しているのは二酸化硫黄です。ではなぜワインのラベルにはそのまま二酸化硫黄もしくはSO₂と表記しないのでしょうか。

正確なところは分かりませんが、おそらくガス状でこの物質を扱うことが少ないためと考えられます。ガス状の二酸化硫黄は有害性が高いうえ取り扱いは意外に面倒です。保管性や取り扱いの容易さという意味では圧倒的に粉末状になっているメタカリの方が有利なのです。

そしてメタカリをワインに添加する場合、粉末のまま直接タンクに入れることは稀で、多くの場合は一度水に溶かしてから添加します。水に溶かしていますので、その時点でメタカリはカリウムを含む亜硫酸になっている、というわけです。

そうした事情を踏まえたうえで、ワインに添加される酸化防止剤とは何ですか、という問いに対する回答は二酸化硫黄、もしくはその化学式であるSO₂とするのが正確なのではないかと思います。ラベルに記載するルールがどうなっているのかは別として、現実問題として亜硫酸を入れていてもメタカリを入れていてもワイン中ではその形態を維持していないからです。

防腐剤の表記は正確なのか

ワインラベルへの表記としてはまず見かけませんが、二酸化硫黄の説明のなかではこの物質を防腐剤と表記している例があります。確かに二酸化硫黄の持つ機能の1つとして微生物の活性を抑え込むことで腐敗することを防止している面はあります。一方でワインの中では圧倒的に酸化防止機能が主体となっています。こう考えれば二酸化硫黄を防腐剤とは表現したくないところではあるのですが、実は防腐剤と表記することにも正当性があります。

欧州連合が定めている食品添加物管理のための分類番号、通称E番号と呼ばれるものがあり、この番号で二酸化硫黄はE220、防腐剤の区分に分類されているためです。

二酸化硫黄の基礎の基礎

最後にワインに添加された二酸化硫黄がどのように働いているのか、その基礎を見ていきます。

ワインに添加された二酸化硫黄は大きく分けて2つの状態に分かれます。1つは遊離型と呼ばれる状態、もう1つが結合型と呼ばれる状態です。ちなみにそれぞれの量は単純に次のような関係式で表すことが出来ます。

遊離型SO₂ + 結合型SO₂ = 総SO₂

遊離型とは分子状SO₂、HSO₃⁻、SO₃²⁻の3つの状態をまとめた言い方です。分子の状態やイオン化された状態で維持されている通り、まだほかのイオンや分子と結合していないので遊離型と呼ばれます。酸化防止にしても防腐にしても微生物の抑制にしても、意味があるのはこの遊離型のものです。

遊離型に含まれる3つの形態がどのような比率で存在するかはワインのpHに依存しています。一般的なワインのpHの中ではHSO₃⁻の量が突出して多くなり、逆にSO₃²⁻はほとんど存在していません。

結合型はまさに亜硫酸塩を含む化合物になってしまった分です。亜硫酸塩は化学的に安定しているためちょっとやそっとのことでは結合が切れることがありません。このためそれ以上は二酸化硫黄としての機能を発揮することもできなくなります。

二酸化硫黄を添加した初期は遊離型の量が多く残っていますが、徐々に結合型に移行していき、最終的に遊離型は存在しなくなります。こうなってしまうといくら多くの二酸化硫黄を添加していたとしてもそのワインは酸化からも微生物のリスクからも守られていない状態となります。

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二酸化硫黄は熟成を阻害するのか

ワインにおける熟成とはその大部分が酸化によって成立しています。一方で二酸化硫黄は還元剤であり、ワインに含まれる各種成分の酸化を防止します。では二酸化硫黄を添加するとワインの熟成が阻害されるのかというと、そうとは言い切れません。

ワイン中にはきわめて酸化しやすい物質が複数存在しています。二酸化硫黄もこの1つですが、例えばフェノールも同じくらいに酸化しやすい物質です。こうした各種成分はワインのなかで常に酸素の取り合いをしています。二酸化硫黄を添加したからといってすべての酸素を二酸化硫黄が独占できるわけではないのです。

このため比較的酸素を取りに行く力の弱い成分は酸素取り込み競争に負けて酸化しづらくなりますが、酸化力の強い成分は二酸化硫黄に競り勝って酸素を取り込んで酸化し、ワインを熟成させていきます。二酸化硫黄を添加した分、取り合い競争が激化するので熟成は相対的にゆっくりにはなりますが、熟成自体が阻害されることはありません。

なお二酸化硫黄がワインの熟成を阻害するように思われる要因の1つはアセトアルデヒド (Acetaldehyde, 化学式 C₂H₄O) との結合親和性にあります。

アセトアルデヒドはアルコールの酸化によって生成される物質ですが、いわゆる熟成香の原因物質でもあります。二酸化硫黄はこのアセトアルデヒドと非常に相性が良く、とても強力に結合していきます。二酸化硫黄と結合したアセトアルデヒドは香りが強く抑制されるため結果として熟成香が弱くなり、ワインが熟成していないように感じられるのです。なお、アセトアルデヒドと結合した二酸化硫黄は結合型SO₂ですが、亜硫酸塩ではありません。

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Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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