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安いワインと頭痛の関係 | ワインあるある

05/17/2020

安酒を飲むと頭が痛くなる、というのと同じ論調で、安いワインを飲むと頭が痛くなる、ということを時々聞きます。

安酒を飲むと頭が痛くなる理由はわかりませんが、安いワインを飲むと頭が痛くなる理由は分かります。それは、そこに頭が痛くなる原因の物質が含まれているからです。もしくは単純に量を多く飲みすぎているからです。ちょっと斜め上に行くものでは、単なる思い込み、という可能性も完全には捨てきれなかったりもします。

一方で、これらの理由はどれもワインが高いか安いかには起因しません

高いワインであっても飲みすぎていたり、頭痛の原因になる物質が含まれていれば頭が痛くなりますし、いくら安いワインでも原因となる物質が含まれておらず、適量をわきまえて飲んでいれば頭が痛くなることはありません。唯一、思い込みからくる頭痛だけはイメージに付随するのでお値段の高いワインでは生じないかもしれませんが。

それでもやっぱり、お安いワインを飲むと頭が痛くなるんだ、という方もいらっしゃるかもしれませんので、もう少しこの点を掘り下げて考えてみたいと思います。

なお、冒頭では「頭が痛くなる」という明確な症状をあげていますが、実際には安いワインを飲んで感じているのは「頭痛」ではない可能性が高いのではないでしょうか?例えば、

安いワインを飲む
→ 気分が悪く二日酔いだと感じる
→ 二日酔いといえば頭痛
→ 安いワインを飲んで頭痛になった

という発展的な思い込みをしているケースはないでしょうか?

いやいや、そんなことはない、頭が痛いんだ。というご意見もあるとは思いますが、実は頭痛ではなく気分が悪かったんだった、ということも少なくないのではないかと個人的には思っています。もしかすると気分が悪いことが原因になって飲んだワインとは直接かかわりのない、別の理由から頭痛につながっている可能性もあるでしょう。筆者の勝手な思い込みかもしれませんが、人間の自覚症状はそのあたり、かなり曖昧なものだと思っています。

なんでこんなことに言及しているのかといえば、それによって今回のテーマで考えるべき内容が全く変わるからです。仮に症状が頭痛だけであれば、直接、頭痛の原因になる成分の含有有無だけで話せばことは済みますが、そうでないのであれば別のことも考えなければいけなくなります。

飲みすぎか、アレルギーか

以前、「酸化防止剤が頭痛の原因というのは本当か | ワインあるある」という記事でワインを飲んで頭痛を感じる原因について書きました。

巷ではよく「ワインに含まれる酸化防止剤が頭痛の原因だ」とする論調を耳にしますが、実際には違いますよ、頭痛の原因になるものは

  • 飲み過ぎ
  • アセトアルデヒド
  • 生体アミン
  • イメージ (思い込み)

のどれか、もしくは複合ですよ、という内容でした。もしこのことに疑問を感じる方は、とりあえずドライフルーツを食べてみてください。それで頭痛になった方はおそらく酸化防止剤である二酸化硫黄 (SO₂) に対してアレルギー性の反応を持っていますので、上記のリストの中に二酸化硫黄を加える必要があります。一方で何も感じない方は上記の説を補強します。それくらいドライフルーツには多量の酸化防止剤が使われています。

ちなみに筆者はこんな仕事をしていますが二酸化硫黄に対して軽いアレルギーを持っているので、ドライフルーツを少し多めに食べると気持ちが悪くなります。それでも頭痛がしたことはありません。

閑話休題

頭痛を生じる原因を単純にしてしまえば、つまるところは量の問題か、アレルギー (毒性物質に対する反応) の問題か、ということになります。これだけです。ですので、このどちらにも該当しないのであればそのワインを飲んでも頭痛を覚えることはないはずです。

酸化防止剤が頭痛の原因というのは本当か | ワインあるある

最近は耳にすることが幾分か減ってきている気もしますが、ワインに含まれる酸化防止剤、つまり亜硫酸や亜硫酸塩と呼ばれる添加物がワインを飲んだ際に生じる頭痛の原因だとする言説があります。 まことしやかに囁か ...

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一方で、自覚症状を「頭痛」に限定しないとすると話は変わります。

例えば前述した筆者の二酸化硫黄への反応がそうです。頭痛はしませんが、それなりに嘔吐感など明らかにネガティブな身体的反応が出ます。こうなると「アレルギー」という視点に変わりはないものの、対象となる原因物質であるアレルゲンの種類が一気に広がります。しかもアレルギーには個人差がありますので、個人差を拾い出したらそれこそキリがありません。カゼインあたりにアレルギーを持っている人など、ワイン全般で何かしらの不調を訴えてもおかしくないほどです。

こうした体調不良から派生して頭痛を感じたりしたときに、それが「ワインを飲んだ」ことに帰結させることは現実問題としては微妙に論点がズレていますが、その一方でこの両者を明確に切り分けて話すことは簡単ではないことは容易にお分かりいただけるのではないでしょうか。

今回のテーマは2つの視点からお話を進めていきます。

1つは量の視点、つまり「どうして安いワインは飲みすぎてしまうのか」という視点です。こちらの視点はこの記事でこれから書いていきます。

2つ目の視点は含有成分からの視点、つまり「安いワインではアレルギー反応を誘発する可能性が高くなる可能性がある」という視点。可能性に可能性を重ねる何とも曖昧な内容に思えるかもしれませんが、こちらは別の記事にまとめます。この2つ目の視点の記事は後日、サークル参加者の方に向けた記事として公開しますので、ご興味があるかたはこの機会にぜひサークルに参加してみてください。

なぜ飲みすぎるのか

お値段がお手頃なワインというものはついつい飲みすぎる可能性が、それ以外のお値段のお高い、もしくはお値段がそこそこといったワインに比べて高くなります。そしてその結果として頭痛につながるわけですが、この「飲みすぎる可能性」、実はかなりしっかりとした根拠があることが考えられます。

まずお安いワインを飲みすぎてしまう理由ですが、以下のようなことが想定できます。

1.気兼ねなく飲める

2.単純に美味しい

1.の理由は納得していただきやすいものだと思います。ボトル1本が3000円とか5000円とかするワインを水のように飲むことはよほど金銭的に余裕がある方でないと気分的に難しいのではないでしょうか。このクラスのワインを無造作にグラスにドボドボと注いで、一気にあおる、なんて飲み方は多分、多くの方はしない (できない) と思います。

これをしない背景にはもちろん、勿体ない、という意識があります。その勿体ない対象はお金だけではなくそのクラスのワインが持っている「だろう」と予想される香りであったり味であったりといったものをゆっくりと楽しみたい、という気持ちでもあります。

これに対して、ボトル1本500円のワインはどうでしょうか?

言い方は悪いですが、このクラスのボトルに期待するものはそれほど多くはないと思います。実際にそのボトルにどのくらいの品質があるかは全く別の話で、あくまでも飲み手側の意識の問題です。こうしたボトルは勿体ないと感じることで生じる勢いのいい飲み方に対する意識的な障壁が低いので、そこまで抵抗なくグビグビと飲めてしまう環境が整っている、ということでもあります。

そのような環境下では飲みたい気持ちをグッと抑えてグラスを口元に運ぶペースを落とす動機付けは働きません。結果、飲むペースが速くなりますし、相対的に飲む量も増えやすくなります。そして気がついたときには飲みすぎている、というわけです。

そうはいっても、それが好みに合わないワインであれば当然、グラスを持つ手は進みません。ここで出てくるのが上記の理由の2番目です。飲むペースを速め、飲む量も増えるためにはやはりそのワインが美味しいものである必要があります。少なくとも不味いものであってはいけません。そして、安いワインというものは好みの違いはあれど、基本的に美味しいワインであることがほとんどだ、と言ったら意外に思われるでしょうか?

安いワインは美味しいワイン?

ワインの「どこ」を美味しいと感じるかは人それぞれです。単純に味を美味しいと感じる人もいれば、酸のバランスであったり、香りであったり、時には歴史やブランドを「美味しい」と感じる人もいます。ここは嗜好品の話ですので、100人いれば100通りの楽しみ方がある、というのは至極もっともなことです。

これに対して、安いワインは大体において美味しい、というのは純粋に味に関する点です。歴史とか複雑さとかそういう言ってしまえば面倒くさい部分は完全に抜きにして、単純に「飲み物」として美味しい、と言っています。少なくとも大多数の人にとって好ましいものとして受け入れられる味である、といういい方でもいいかもしれません。

もちろん「この値段であれば」という前提条件が付く場合もありますが、場合によってはそのような前提もなく、歴史のあるワイナリーの中途半端なワインよりも純粋に飲み物の味としてはよほど美味しいと感じられるものも、おそらく少なくないと思います。実際にご自身の体験からこうした感想をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。最近よく聞くようになった、「コスパ最強ワイン」なんてキャッチフレーズはまさにこの典型例だと感じます。

ではなぜ、これらのワインは値段が安いにもかかわらずこんなにも美味しいのでしょうか。

メモ

そもそも今回の主題としている「安い」という概念はかなり抽象的で、人によって受け取り方の範囲が変わります。この記事では日本で1000円以下で買える輸入ワインを大まかなイメージの中心においています。

高いワインはなぜ高い

世の中には値段が高いワインというものが無数に存在しています。これらのワインにどうして高い値段がついているのか、想像したことはあるでしょうか?

希少だから?

美味しいから?

有名だから?

どれも正解といえそうです。特に希少性など価格が引き上げられる理由としては非常に一般的でしょう。

もちろんワインの値付けというものは究極的には生産者、販売者の個別の事情に起因しますので彼ら彼女らの胸三寸という部分も無きにしも非ずなのですが、基本的にはワインの値段をあげているのは次の2つの要因です。

  • 時間
  • リスク

ビジネスの観点から観れば、例えば原価率であったり設備投資であったり固定費であったりを想定し、そこにワインの価格を反映させることを考えると思います。しかしそのあたりは実際には高いワインでも安いワインであってもそんなに変わりません。もちろん安くワインを造るためには機械化を促進して人件費を削ったり、少しでも安く原料のブドウを仕入れたり、ということはありますが、むしろ、そうしたことも含めて上記の2点が重要になります。

人手をかけることでボトル1本当たりに使う時間の総量を増やしているから、収量を抑えることで天候等による被害の拡大や収穫物の品質によっては造れなくなるリスクさえも見込んでいるから、そうしたボトルの価格は高いのです。

逆に言えば、ワインを少しでも安くしようとするのであれば、極力、時間をかけず、かつ環境に左右されずに常に安定して一定の品質を保ったワインを造ることがとても大事なのです。

どうやって常に安定した品質を実現するのか

ワインというものは基本的には原料がブドウ100%のアルコール飲料です。このため、品質の安定というのは原則的には収穫されるブドウの品質の安定のことを指します。しかしそうはいってもブドウは農作物。天候をはじめとした自然といった、人の手ではどうにもならない要素がその品質には関わってきます。

価格の高いワインを造るための原料としてのブドウであればそのような状態でも人手をかけ、時間をかけ、それでもどうにもならない部分はリスク相当分として価格に反映させます。しかし、安いワインを造るための原料としてのブドウにはそのような手段はとれません。もともと利益率の低いものです。余計なコストを載せる余裕はありません。

ではどうするのかといえば、醸造技術を使ってある程度のブドウの品質のブレを吸収したうえで一定の品質に落ち着くように調整するのです。

この調整の幅や方法はもちろん年やブドウの状態によって変動しますが、仕上げられるワインの品質は常にほぼ一定になります。

このやり方はちょっとしたアッサンブラージュによる味の調整程度のものから、にわかには信じられないほど踏み込んだものまであります。詳しいやり方はここでは触れませんが、あくまでも参考事例として極めて極端な例を一つ挙げてみましょう。

「ワイン」を作る上で最も重要なステップは「ブドウの果汁を発酵させた」という事実を得ることです。このため、一度、どんな品質のブドウでもいいので絞って果汁を得、その果汁を発酵させます。これで最低限度、「ブドウ果汁を発酵させて作ったアルコール飲料であること」というワインとしての最低条件を満たすことが出来ます。あとはこのベースワインを一度徹底的にフィルタリングすることで単なるアルコール水に近づけ、そこに必要な量の糖分や酸、タンニンなどを改めて加えていけばある意味において理想的なワインが出来上がります。

香りは別のワインを混ぜるなり、一度ろ過の過程で除去したものを戻してやることも技術的には可能です。(実際には多くの国や地域で「ワイン」としてここまで極端な作業をすることは法的に認められていません)

こう書くとあまりにも工業的として忌避感を持たれる方も多い事だろうと思いますが、素人の手料理よりも冷凍食品の方が美味しいことが多いのと同じことで、中途半端なものを使ってコストをかけながら中途半端に作り上げたものよりも工業的であってもコストを引き下げつつ大量に一定の品質で作り上げられたものの方が安くて美味しいということは普通にあることです。

また調整という範囲でいえば、補糖をしたり補酸をしたり、時には除酸をしたり醸造用タンニンを添加する、なんてことは一部のワイン生産国における醸造の現場では極めて日常的な風景ですし、以前、「ワインは混ぜるな危険?!」という記事でも書いた通り、ワイン同士を混ぜ合わせて味を調整することは自体は普通なことで特別でも何でもありません。

https://note.com/nagiswine/n/n826dc100b4f5

極めつけに、ワインは冷凍もされていなければ飲む前にレンジでチンもされません。見た目、どれも似たようなボトルに瓶詰めされ同じ棚に並べられます。そうなってしまえば知らない人にとってはどれも同じです。大好きな母親が手作りしたお弁当とどこかのインフルエンサーが言うような冷凍食品を詰めたお弁当を比較するような事態にはなりません。

そうして並べられた中から値段を見つつ適当に選んで、しかもそれが美味しければ文句の出ようはずもありません。

造り方がどうだ、文化がどうだ、香りの奥行や複雑さがどうだ、というのはある程度以上に高いワインを知識のバックグラウンドを持って飲む場合にしか議論されません。そんな蘊蓄の数々を取っ払ってしまえば、ある意味において工業的な造りのワインは美味しいワインの範疇に十分入ります。しかもお安い。こんなに量を飲むのにお得なワインは他にないのではないでしょうか。

今回のまとめ | 量を飲みすぎイメージで酔う

調整できるワインというのは安価に入手することのできる砂糖を用いた補糖によってアルコール度数をあげることが出来るため、1g当たりのアルコールの単価が調整をしないワインのそれよりも安く済みます。このため、こうしたワインではアルコール度数が比較的高く設定されていることが多くあります。量を飲むワインのアルコール度数が高ければそれだけ飲み過ぎる原因になりますし、醸造的にも発酵副産物が多く生じる可能性が出てきますのでその面からも頭痛や悪酔いの原因につながる可能性は高くなります

さらにワインそのものに対するイメージというものがあります。

自然派ワインなどは飲んでも酔わない、と言われて、実際に飲んでも酔わなかったという人がいます。しかし頭痛を誘発する物質の含有量という意味では自然派ワインの方がよほど多いケースがよくあります。それでも酔わないし、頭痛を感じることがないのは植え付けられたイメージによるものである可能性が無視できません。プラシーボ効果、というやつです。

一方で、安酒では悪酔いするという刷り込みが成されている場合ではこの逆の効果が出て不思議はありません。しかも実際に量を飲んでいることも多いのです。悪酔いしなかったり頭痛を感じなかったりする方がむしろ特殊と言えることもあるでしょう。

結局は安くて景気よく飲むことに抵抗を感じず、かつ味にも大きな不満を感じない、いい感じのワインを大量に飲めば頭痛になったり悪酔いすることくらいは不思議なことでも特別なことでもない、ということです。あまりに当たり前なことではありますが、いくら美味しくて懐にも優しいワインであったとしても節度を守った飲酒は重要ですし、せめて水はきちんと飲みましょう、ということです。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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