仕事の流儀

瓶詰め作業、委託か所有か

08/09/2018

今日は一日、ワインの瓶詰め作業に追われました。

ひたすらワインをボトルに充填し、栓がされたボトルをそのまま保管用の鉄製のかごに入れたり、箱詰めするものは箱に入れ、封をし、必要な情報を印刷し、そしてパレットの上に並べていくという作業を延々10時間近く続けていました。と言っても、これらの作業の多くは機械化出来ているので人手が必要になるのはワインが充填され、封がされたボトルを保管用の容器に並べたり、箱詰めしたり、その箱をパレットに並べたり、という作業とあとは必要な瓶や箱の供給をするといった作業になります。言ってみれば、結構な肉体労働がメインになるわけです。

ワインの瓶詰め作業というものは、その前に行うワインへの処置や、使う道具や動作方法の種類といった部分で非常に細かい点がたくさんあります。もっとも装置的な部分に関しては一度導入してしまうとそうそう替えが効きませんので、知識的な部分はともかくとして実際には必要とされる知識はそれほど多いわけではありません。

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瓶詰め作業に対するスタンス

さて、ワインのボトリングに関わる各種装置の動作原理などに関してはとりあえず置いておくとします。今日はむしろ、これらのボトリングに必要になる各種装置を自分たちで所有するのかどうかに注目したいと思います。

装置に関しては、自分たちで所有する以外にも外部の業者に委託してしまうという方法があります。

この委託に関しても、自分たちで業者のもとにワインを持っていって作業を代行して貰う方法と、業者にワイナリーまで来てもらってそこで作業を行う方法とがあります。後者の場合、多くは作業の代行は装置関連の一部にとどまり、大半は自分たちで作業行う必要があります。

どの方法にもメリットやデメリットがありますので、一概にどの方法がいいとは言えませんし、どの方法を取るのかは多くの場合、ワイナリーの瓶詰めに対するスタンスに拠ることになります。

所有と委託、それぞれのメリットとデメリット

装置の自社所有におけるメリットは、なんといっても自由度です。

ワインの瓶詰めをしたいと思えば他者のスケジュールを考える必要なく、いつでも自分たちの都合で行うことが出来ます。またすべての装置などが自身の管理下にありますから、ワインの品質管理等がよりしやすいというのも大きなメリットといえます。

この一方で、装置を持つことのデメリットの大部分はコストです。

ワインの瓶詰め作業は造っているワインの量にもよりますが、一年を通してそう何度もやることではありません。このため、その少ない回数に対して結構な額する装置を自前で導入することは大きな金銭的な負担になりますし、装置はメンテナンスが必要になりますので、そのメンテナンスコストもまた大きな負担となるといえます。またこのコストには装置を保管しておくための場所や面積といった面からのコストも含まれています。

委託する、という選択肢

これに対して装置を外部に依存することのメリットは、設備投資が少なく済むこと、メンテナンスフリーであること、装置の管理や保管面におけるコストがかからないことがあげられます。

外部の委託業者が常に最新の装置を保有しているようなことはまずありませんが、トラブルの多い装置関連の補修管理をしなくて済むことは、労働コストだけでなく、心理的、精神的なコストの面からも非常に大きなメリットと考えることが出来ます。また、それを専門にやっている人たちに任せることは作業の安全面から見ても決して悪くない選択肢と言えるでしょう。

また、こういった下請け業者の所有する装置の回転率が極めて高いことも特徴です。彼らは受けた依頼を少しでも早く終わらせて、その時間にもう一軒の仕事を入れた方がより儲かります。このため装置は常にフル稼働させることを考えますし、少しでも効率のいい装置に常にリプレースをかけていく、という発想を持ちやすい環境にいます。ですので、常に最新の装置、とはまではいかないまでも、ある程度は新しい装置を常に導入しているケースが多くなることは瓶詰め作業を委託する上で大きなメリットと言えます。

エチケット上の表記、という視点

なおこれはついでのようなものですが、ワイナリーまで出張してくれるタイプの業者を頼んだ場合、作業に関わる部分の多くは自分たちでやらなければならない反面、ボトリング場所を自分たちのワイナリーと表記することが出来るようになります。ドイツではワインのエチケットに瓶詰め場所に関する情報を記載する必要がありますので、この瓶詰め場所を実際には自分たちで装置を持っていなくても自社内と表記できることは一部のケースでは大きなメリットとなりえます。

委託した場合のデメリット

外部委託のデメリットは作業のたびにかかる委託費用や、ワインを持ち込む場合にはその持ち込みのための労力や移動時における各種リスクなどがあげられますが、なかでももっとも大きなものとしては、瓶詰め作業時のワインの品質管理が部分的に自分の手から離れてしまう、ということです。

ワインの品質劣化が装置のトラブル等に拠るものであれば自分たちで所有している装置でもあり得ることなので外部委託の場合に生じる特別なデメリットということは難しい部分があります。しかしその問題が”その装置で他人のワインを扱ったこと”から来るのであれば、これは話が変わります。

具体的に言うと、瓶詰めのための装置のいたるところで使われているゴムパッキンやホースなどを通して、ワインの香りなどが移る場合があることがわかっています。しかもこの装置内への香りの残留は一般的な水による洗浄では落とせないことがほとんどです。つまり、委託した業者が事前に他者のワインを瓶詰めし、その装置をきちんと洗浄していたとしても、その他者のワインの香りや一部の内容物質が自分のワインに移ってきてしまうという可能性があり得るのです。

ただこの点に関しても、装置を自分たちで所有していたとしてもワインごとに装置を完全に使い分けていたり、一つだけしかワインの種類を持っていない、といった場合以外には少なからず生じている問題ではありますので、あまり細かいことに神経質になりすぎるのもどうなのか、という考え方もあると思います。実際の作業を考えれば、ワインは少なからず別のものと混ざってしまうもの、と思ってある程度は割り切っていないととてもやっていられないこともよくあります。

それでもやはりすべてのリスク管理を自分たちの手の中においておくのか、ある程度割り切った上で信用という考え方のもとにその一部を他者に委ねるのかについては、まさに各ワイナリーのスタンスによる、といえるでしょう。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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