ぎりぎりとはいえまだ8月の今日、筆者が勤めているワイナリーでも最初の収穫が行われました。
品種はSpätburgunder(シュペートブルグンダー)とDunkelfelder(ドゥンケルフェルダー)。Rosé Sekt用のベースワインにするためのぶどうです。ちなみにDunkelfelderという品種はあまり聞いたことがないのではないかと思いますが、Dunkel、つまり、”濃い”、”暗い”、という名前がついている通り絞ったジュースの色が濃い品種で、赤ワイン系のCuvéeを造る際に色味を強くする目的で混ぜられることの多い品種です。
今回、これらのぶどうの収穫はVollernter(英語:harvester)と呼ばれる機械を使って行われ、我々はワイナリーでぶどうの到着を待っているという、今までの収穫からするとちょっと毛色の違うものとなりました。
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所変わればやり方も変わる
筆者がこれまで収穫を行ってきたワイナリーはどこも手摘みのみを行うワイナリーだったこともあり、機械収穫されたぶどうの取扱は今回が初めてでした。
もっともVollernterのことは当然知っていますし、どういう状態でぶどうがワイナリーに来るのかも知っていましたので作業手順自体は大まかながらも予想できていました。ただそうは言っても場所が変わればやり方が変わり、そのやり方を最初から完全にはフォローできないのはある意味で当然のこと。今回も実際の作業としては一部で筆者の予想とは違うものとなりました。
まず、基本として簡単な収穫の流れを説明しておきます。
手摘みで収穫されたぶどうは多くの場合、収穫者個人個人が持っているバケツにまずは入れられ、それを回収人が回収していきます。この場合の回収の方法としてドイツで多いのはバケツから回収役が背中に背負った大きめの容器に移し替え、回収役の人はそれをトラクターなどに設置されたさらに大きな容器に空けていく、というやり方です。
畑が平地の場合などはトラクターで直接、ぶどうの列の中に入っていき、そこに置いてある収穫済みの容器を容器ごと、もしくは中身だけ回収することも多いです。
こうして集められたぶどうはワイナリーに運ばれ、そこですぐにプレスにかけられる場合もあれば、房から実だけを分離する工程を通してからプレスに入れられる場合もあります。
一方で、機械摘みの場合にはその性質上、収穫された時点でぶどうの実は半分潰れたくらいの状態になっています。これをほとんどの場合はそれ専用の牽引車に入れ、そのままトラクターで引っ張りつつ、ワイナリーに搬入します。
ここで手摘みと機械摘みとの大きな違いは、ワイナリーに到着した時点でのぶどうの潰れ具合です。
機械摘みの場合のほうが明確にぶどうの実は潰れ気味になっており、かなりの量のジュースがすでに容器の中に流れ出てきています。つまり、ワイナリーに到着後の作業はいかにこのジュースをこぼすことなく、次の作業につなげていくのか、という点が非常に重要になるのです。
フォークリフトが大活躍
ジュースの量が多いとは言っても、まだまだ潰れていないぶどうの実や房も多いので、これらをポンプでプレスに直接流し込む、というのはあまり現実的な方法とは言えません (今回のぶどうはSekt用であることに加えRoséにするのが目的なので抽出に時間を掛ける必要がほとんどなく、基本的に除梗の作業は必要ありませんでした)。
このため、いずれにしても何かしらの容器に移し替えてそれをプレスに流し込む、という作業が必要になります。量が少なかったり、プレスの容量が小さかったりする場合にはバケツリレーで手作業、という選択肢もないわけではありませんが、筆者のいるワイナリーのプレスは4000Lの巨大なもの。とてもではないですが、手作業なんてやっていられません。
そこで出てきたのが、小さな風呂桶くらいのサイズの容器とフォークリフト。牽引車からぶどうとジュースを容器に出し、その容器をフォークリフトで持ち上げてプレスに流し込む、という作業になりました。
ワイナリーで働いていると、以前の記事でも書いたようにトラクターを運転できることはほぼ必須条件になります(参考記事:トラクター)が、それと同じくほぼ必須として求められるのがフォークリフトの運転。ドイツにもフォークリフト用の免許のようなものがあるのですが、私有地内だから、ということなのかそんなものは持っていないにもかかわらず、筆者も日常的にフォークリフトを運転しています。
そしても今日も、ぶどうをプレスに流し込む作業はもとより、プレスに漏斗のような機材を設置する作業やそもそもぶどうを満載した牽引車を停めるための場所の整理、そして屋根の上に届くくらいまでうず高く積まれた収穫用容器の上げ下ろしとその洗浄などのために日がな一日フォークリフトで作業をしていました。
フォークリフト自体は以前にお世話になったワイナリーでもよく使っていましたし、収穫の時にはその活躍の度合が飛躍的に増えることはよく知っていたのですが、まさか収穫のその日に一日の殆どをフォークリフトの座席の上で過ごすことになるとは思いもしていませんでした。一日働いて、短距離の往復とはいえ全体的には相当な距離を移動したにも関わらず、自分の脚で歩いた距離は殆どない、という状況です。
所変わればやり方も変わるとはいえ、今日の作業は今までに経験のない内容となった一日でした。