これまで二度に渡り、二酸化硫黄の持つ細菌や微生物の活動の抑制効用と抗酸化作用を説明してきました。しかし、二酸化硫黄の持つ効用はまだこれだけではありません。3回目となる今回も引き続き、二酸化硫黄の持つ効用についてのお話しを続けたいと思います。
二酸化硫黄の効用に関する以前の記事はこちらからご覧いただけます。
二酸化硫黄は酵素の活動も抑制する
ワイン用ブドウに由来する酵素として、2種類の酸化酵素があることが分かっています。二酸化硫黄はある一定量以上の添加によって、このうちの一方の活動を60%からほぼ100%に至るまで抑制することが出来ます。もう一方の酵素についても、その活動量の10%程度を抑えられます。また、これと同時にコエンザイムとしてブドウ中に存在している酵素の活動量も低下させることが出来るのです。
この酸化酵素の活動抑制は前回の記事で取り上げた、二酸化硫黄の抗酸化作用の一端を担っている効能でもあります。
二酸化硫黄の添加に伴うその他の影響
二酸化硫黄の添加はこれまでに見てきた効能以外にも影響を及ぼします。
例えば、ワインの味や香りへの影響です。二酸化硫黄は還元剤であるため、この還元作用を通して多かれ少なかれワインの味や香りに影響を与えます。特にアセトアルデヒドやケトン系化合物に対する働きからはこれらへの影響が大きく出ます。
またこの一方で、場合によってはいわゆる還元香とも言われるものや、よりひどい場合にはドイツ語でBöckser(日本語訳は分かりませんが)と呼ばれるオフフレーバーである、硫化系の香りをワインに付与してしまう原因になる可能性もあります。
また、二酸化硫黄の添加は赤ワインの色味にも影響を与えます。
完全な「二酸化硫黄無添加」は可能か?
ここまで見てきた二酸化硫黄を用いることで得られる効能の数々ですが、それでもやはり二酸化硫黄は避けたい、という考えも根強くあるのが現状です。
ではその要望にしたがって、二酸化硫黄を含まないワインを造ることは可能か、といえば、若干トリックを含んだ表現になってしまいますが、「無添加」であることは可能ですが、「非含有」であることはほぼ不可能です。
以前の記事で書いたことですが、そもそも二酸化硫黄を無添加にすることもそうそう簡単なことではありませんし、品質的に考えればかなりのリスクを伴います。仮にそれだけのリスクと手間をとったとしても、結果的にはワインの中には二酸化硫黄が含まれます。なぜなら、この二酸化硫黄はワインの発酵中に生成される物質でもあるからです。
発酵段階における二酸化硫黄の生成は主に酵母の活動によって行われます。これは使用する酵母の種類など各種条件によってかなりその生成量が変わりますが、ある研究では平均して70 mg/l 以上の二酸化硫黄が発酵中に生成されることが報告されています。つまり、この時点ですでにワインのエチケットから二酸化硫黄を含有している旨の記載を削除することは出来ないのです。
実際に、ワインの売場を見ていただくと「亜硫酸塩”無添加”」と謳っている商品はあっても、「亜硫酸塩”非含有”」としている商品はないのではないでしょうか?残念なことに、ワインにおいては二酸化硫黄を”無添加”であることと、”非含有”であることは同意ではないことにご注意ください。
なお、技術的にワインに含有される二酸化硫黄濃度を下げる方法がないわけではないですが、ワインの味や香りを完全に無視することになりますので、現実的な方法とは言えません。
二酸化硫黄無添加ワインを造るための条件についてはこちらの記事も参考にしてください
また、ワイン中に存在する二酸化硫黄は必ずしも直接な添加に由来するものであったり、発酵中に生成されることによるものであったりするばかりではありません。
次回はこれ以外の要因による二酸化硫黄含有の理由を解説します。