仕事の流儀

ぶどうの開花

05/22/2018

今日、驚くべき一報が入りました。ドイツの一部地域で、すでにぶどうが開花したというのです。

確かに今年の天候は近年に増して少々異常で、雨が極端に少なく、気温の高い日々が続いていました。今日などは場所によっては最高気温が30度程度まで上がっていたほどです。しかし、だからといって5月のこの時期にすでにぶどうが、しかもリースリングが開花するなど聞いたことがありません。

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ぶどうの開花時期

例年のぶどうの開花時期は、ラインガウ地域で6月の半ばです。

ぶどうの開花は大体、その枝に葉が12~13枚程度つく頃になります。

これはどういうことかといえば、ぶどうの葉は枝の節ごとにつきます。このため、ぶどうの枝についた葉の枚数が多いということはそのまま、枝の節の数が多いということであり、同時に枝がそれだけ伸びている、ということでもあります。枝の節の間隔はぶどうの品種ごとにかなり大きくバラつきますが、節の数が10を超えているということは、枝の長さは最低でも1m前後あることになります。

枝が1m程度ということは、ぶどうの樹全体の高さとしてはすでに約2mです。ここまで高くなっていると、すでにワイヤーはもっとも高い位置に上げられなければならない状態になってきている、ということでもあります。つい先日上げたばかりのワイヤーを再度、上げ直さなければなりません。

ぶどうの成長はますます速く、余裕はますますなくなる

ぶどうの成長にとって、もっとも適した気温は実は28度前後です。外気温がこれくらいの水準を保つと、ぶどうはもっとも効率よく光合成を行い、成長のためのエネルギーを作り出しつつ、その成長を加速していきます。

通常、28度という気温はすでに夏のものであり、6月後半から7月になってはじめて目にするようなものであるはずでした。ところが、今年はすでに今日がそうであったように数度にわたってこの程度の気温が記録され、平均気温も例年よりもかなり高くなっています。このような状況を背景に、現状においてすでにぶどうの成長は加速し始めており、我々作業者に許される作業時間はどんどん縮まってきています。

このまま枝が伸びるようであれば、例年よりも早めに成長点を止めなければならなくなりますし、それに伴う作業もどんどん追加されていきます。

逆に、副梢などがあまりに太くなってしまっていると、この除去に対してリスクが高くなってくるため、除去自体を諦める必要も出てきます。そうでなくても順調すぎる成長を背景に、ぶどうの葉の面積がかなり大きくなってきていますので、総体的に果実領域における通気性がすでに悪化しがちです。すでに一部の菌系の病気の活発化が予想されていますので、なるべく早くこの病気への感染防止に向けた作業も必要になります。。。

そうしてぶどう畑は人手不足に

以前に”ぶどうの発芽”という記事でも書きましたが、ワイナリーは基本的に毎年の経験から一年の仕事のペースを計画し、それにあわせて資材や人手を準備しています。一昔はまだまだ人件費も安かったため、仕事の有無に関わらず年間にわたって人手を確保しておく、という方法も採られていたそうですが、現在は最低賃金も上げられ、ワイナリーとしては経費節減の視点から仕事の有無にあわせて細かく人手を確保するようになっています。

つまり、予定していない時期に予定していなかった仕事に対応できるだけの人手は通常、ないのです。

これに対して、今年の状況は明らかに予定外の動きです。

ぶどうの成長が促進している以上、そのまま放置しておいて予定していた時期に予定していた仕事をする、という訳にはいきません。今やらなければならない仕事は、まさに今、やる必要があります。しかも例年よりも短時間で、です。

そうなると当然、事前に予定していたような最低人数で例年通りの時間をかけて仕事をするようなことは出来なくなります。より多くの人手を用意して、一気に仕事を進める必要が出てくるのです。

これは大変なことです。

まず、人手の確保はそうそう簡単なことではありません。また、出来たとしてもコストが増える可能性があります。人手の取り合いが生じるためです。実際にこの競争に勝つことの出来るワイナリーはそれほど多くないでしょうから、相対的に多くのワイナリーでは人手不足が生じることになります。

前述のとおり、ぶどう栽培においては適切な時期に適切な対応を行うことが収穫に大きな影響を与えます。人手不足を嘆いていても人手は増えることはありませんので、このような状況ではぶどう栽培者は痛い頭を抱えながらも、黙ってとにかく手を動かすのみ、です。

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  • この記事を書いた人

Nagi

ドイツでブドウ栽培学と醸造学の学位を取得。本業はドイツ国内のワイナリーに所属する栽培家&醸造家(エノログ)。 フリーランスとしても活動中

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