一日の日が長くなり、気温が上がってきたこの時期にぶどう畑での戦い、というと、筆者としては花粉との戦い以外の何ものでもないのですが、当然、今回の話題は違います。
気温が高くなり、日照時間が長くなってくると、ぶどうの発芽が続き、新梢が日に日に大きくなっていきますが、大きくなるのはぶどうだけではありません。様々な場所で越冬をした昆虫は活発に動き始め、育って欲しくない病気の原因となる菌類などもまたその活動を開始します。
新芽は比較的病気にもかかりやすいことから、新梢が伸び始め、葉が茂り始めたこの時期が、ぶどう畑における戦いの開始の時期でもあるのです。
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菌類にはスプレーで対抗
新芽が伸び始めたこの時期は、最初のスプレーの時期でもあります。スプレーとは、言葉のとおり、病気を予防するための薬剤を散布することです。これは、基本的にEcoであろうと、なかろうと、基本的にはほぼすべてのワイナリーが行っています。
散布の方法は様々ですが、大別すると機械と人力に分類されます。
人力は手押しのポンプ機能のついたタンクを背負い、畑を歩きながら散布する方法です。一見自然に優しく見えますが、散布にムラが出やすいうえに、噴き付ける際の圧が弱いために葉への定着が悪く、かえって量を多く撒いてしまっている場合があるなど、一概にはは言えない部分も多くあります。タンク容量の関係で作業途中で液切れすることもなくはないため、作業効率も悪くなりがちです。
このような完全な人力での方法に対して、半人力、とでも言うべき方法が、トラクターでポンプを回しつつ、スプレーガンで人が歩きながら散布をする方法です。この方法では散布濃度にムラが出るのは変わりませんが、噴射圧は十分に確保することが出来ます。また、タンクはトラクター側にあるため、液切れのような問題も起こりにくくなっています。一方で、トラクターからホースを引っ張ってスプレーガンに繋がなければならないため、ホースの長さや取り回しが作業時のボトムネックとなる場合があります。
この方法は、トラクターが入れないような急傾斜の場所などで散布をする際に行われています。
進化を続ける機械式スプレー
今の主流は、トラクターで走行しながらスプレーする機械方式です。
この方式は一人で、短時間に効率よく広い面積をカバーできますので、作業効率だけの面ではなく、迅速な対処という意味でも極めて優れた方法だといえます。スプレーに関しては散布できる条件面からの制約があるうえ、できるだけ短期間にすべての畑面積を完了できるにこしたことはないため、機械を使って一気に作業を行えることはとても魅力的なのです。
この機械式スプレーですが、実はいろいろな種類のものが販売されています。
形状だけでなく、噴射方式の違いなどでも区別されており、各方式によってそれぞれ長所、短所があります。またワイナリー関連の装置の展示会などを見に行くと、毎年異なったスプレーの新製品が展示されているなど、年々進化を続けている装置でもあります。ただ、スプレー装置は当然ですがワイナリーからすれば高い買い物なので、そうそう買い換えるようなことは出来ず、毎年同じものを使うことになります。この結果、ぶどう畑ではとても年季の入った装置でスプレーをしている光景などを見かけることは珍しいことではありません。
一方で、スプレーには適切な運用の他に、どのような場所に届かなければならないか、一度にどのくらいの範囲をカバーできることが理想的か、またそれ以外にもある各種要求をどのようにクリアしていくのか、ということが問われます。これらの要求を満たす性能は当然、新しいモデルのものが優れているため、ワイナリーではどのようなモデルのものを購入すればその後の長い期間を問題なく過ごせるか、頭を悩ませるものとなっています。
RAKディスペンサー
今日の仕事のメインはこの、RAKと呼ばれるディスペンサーを一定間隔でぶどうの樹にかけて回る仕事でした。
このディスペンサーはTraubenwicklerという蛾のような昆虫に対応するためのもので、世間的にはフェロモン剤と呼ばれているものです。このRAKから少量ずつ放出されるフェロモン剤によってTraubenwicklerは生殖活動が阻害されるため、ぶどう畑内における繁殖が抑制され、結果としてこの昆虫による被害を軽減することが可能となります。
RAKはフェロモン剤であるため、直接対象に影響を及ぼすようなものではなく、殺虫剤のようなものではありません。また、なにか対象の神経中枢に作用したり、体組織にダメージを与えるようなものでもありません。このため、どのような畑でも使用することが可能であり、この時期にはどの畑でも一斉にこのディスペンサーを取り付ける作業が行われます。
このディスペンサーを取り付ける作業は、さすがに機械化することは出来ませんので、今でも人が手で一つずつ吊るして回っています。この器材はある程度の効果範囲をもっているため、取付作業は一定の間隔をおいて行われます。しかし、それでも基本的には取り付ける畑の全面を歩き回る必要がある作業であり、この作業のある時期の一日の歩行距離はなかなかのものとなるのです。